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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第四章 商会篇
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80話 胸がスッとした

「……しかし、その制限は、やりすぎではないか?」


「誰を敵に回してんのか、よく理解しろ、って話だぜ? まあ、今後の展開次第じゃ、考え直さないでもねえかもな」


 危険を冒してシスの街まで単身戻って来てる俺が、まだ上位に立ってる勘違いしてるハインの馬鹿野郎に下す『制限』は、どうやら予想外だったみたいで。


「どうにか、ならんのか? シスの街で栽培しているハーブの備蓄はそれほど多くない。現在の消費量からすると、半月で尽きてしまう。――元々の収穫がそれほどに少ないからな」


「そりゃ、そうだろうよ。農作業指導するシンディが居ない上に、ハーブの改良栽培を研究してるサーティエはアントスに居るんだからな」


 すげえ困って焦ってる感じのハインが、見たこともねえくらい慌てふためいてんのが笑える。


 下のもんには見せられねえ狼狽っぷりだよな。――もしかして、ハインの執務室が盗賊ギルド本部の結界部屋になってるのって、そういう理由もあるのか?


「って、意地悪はここまでだ。――オマエの嫁さん、レイメリアと娘のレムネアに前々から頼まれてたんだよ、『明らかにハーブ中毒だから、何とかしてくれ』ってな」


「オレが、中毒症状……だと?」


「自覚ねえのがタチ悪いっつか……、たぶん知らねえんだろうけど、ハーブの主成分が『カフェイン』に似た強い依存成分を持つんだよ」


 愕然と、テーブルの上に全部出させた、ハインの野郎がいつも持ち歩いてる商会特製の布ハーブをハインが見つめてる。


「麻薬、のようなものか?」


「そんなもんだ。健康被害はねえんだけどな。……だんだん薬効の強いもんを欲しがってくし、辞めたら一時的に禁断症状が出る。そんなに強い禁断症状じゃねえんだが」


 未練がましく、こっそりと片手に隠してテーブルの下に下げよう、としてるハインの片手をべしっ! と叩いて中身を取り戻して、布ハーブを全部まとめた俺は、ハインの手の届かない俺の異次元収納に全部放り込んだ。


「オマエ、ここら辺の禁断症状に耐性が無さ過ぎるみたいだな。貴族だったせいもあるかも」


「貴族が陥りやすい禁断症状のあるハーブ、ならば、利用価値は無限大だ。どうしても、卸して貰うわけには行かないのか?」


「俺を死の商人にする気かよ? 試験期間で、オマエ以外に卸してなくて良かった、って思ってるとこなのによ?」


 口には出してねえが、それでなんか問題発生したら、ハーブの元々の生産者なサーティエや、卸元の俺ら商会に責任押し付ける気満々だろうし。


「今んとこ、ハーブティ程度なら『飲まなかったら多少不満になる』程度だから、盗賊ギルドで栽培してるハーブまでは焼かねえ。けど、『常飲で依存症になる場合がある』ってな周知させとけ」


「……にわかには信じられんが……、解った、こちらでも試験してみよう」


「往生際が悪いぜ? ハーブ生産者な俺らが試験した結果を伝えに来てんだ、引き延ばそうとすんな」


「……了解、した」


 ぐぬぬ、って感じになってるハインを見て、多少溜飲が下がる、ってもんだ。


「まあ、その代わり、と言っちゃなんだが」


 ころん、ってゼリー状の緑色な四角い物体を、机の上に一個、転がり落として。


「コイツはサーティエとシフォンの研究成果だ。まだ市場に流さねえが、食用試験者を探してるとこでな」


 言い終わらないうちに、俺の目でも捉えられないような瞬速でぱくっ、と口に含んだハインが居て。


 ……王族の出の筈なのに、なんでそんな食い意地張りまくってんだ、オマエ。


「っあー、飲み込むなよ? 口の中で噛んで、唾液だけ飲み込め」


「……食しておいて何だが、これは、何だ?」


「俺らは『ガム』って呼んでる。ハーブエキスを自分で出すように品種改良した植物の『樹液』みたいなもんだ」


 なんで草花が『樹液』出すんだ、って突っ込みたいのは俺の方なんだが。


 水の精霊使いで植物の育成に詳しいシフォンにチューインガムの概念伝えて、なんかそういうもん作れねえかな? って相談したら、出来たのがコレで。


「粘性の強い固形樹液で、ハーブエキスをふんだんに含んでるもんで、最初からかなり味が濃いんだが。噛み慣れれば一日中でも噛んでられるはずだ。誤飲しても無害だしな」


 発想の大元としちゃ、俺やシィがガキの頃に禁煙で四苦八苦してた親父が、あの手この手で禁煙グッズ試してた中に噛みタバコがあったのを思い出しただけ、なんだけどよ。


「どうだ? 試食した感じ」


「確かにっ、これは、強い! ハーブティ、50杯を、一噛みで、得ている、ような」


「味を弱めるにゃ、水を足せばいいだけだ。濃縮ハーブなんだからな。使いみちは幾らでもあるだろ。ただ、味は濃いが、依存成分は弱めになってる筈だ」


 テーブルの上にあった水差しを引き寄せてやったら、ひったくるようにして水差しから直接水をごくごく、と飲んだハインだったが……、ガム自体は吐き出さねえのが笑える。


「依存成分自体は酒でもある程度は持ってるもんだから、ある程度まで弱めたら無害とまでは言わねえけど、気にならなくなる筈だ。――こりゃサーティエやシフォンみたいな専門家に診断して貰わねえとダメだと思うんだが」


 びしっ、と俺は片手でハインの鼻先を指差して。


「俺の見立てじゃ、オマエはこういう、依存症になりやすい嗜好品にすげえ弱いんだ、って思ってる。……気をつけろ、って言いたいとこだが、オマエの立場じゃハーブ以外にも毒耐性付けたりしなきゃで、難しいよな?」


「ご名答、だ。恥を偲んで言えば、オレには酒乱の気もある。だから、レイメリアと一緒になってからは、禁酒の誓いを立てているが……、実は、こっそりと飲んでいることもある」


 ずうん、って青線バックに背負ってる辺り、本気で深刻そうだな。


 コイツが一般人ならほっといてもただのダメ親父なんだが、コイツの発言や行動の影響力はちょっと絶大すぎっからな、反則技で対処することにしたんだ。


「そんなこったろうと思ってたんだよ、前々から。綿密な計画と稚拙で大雑把な計画が混在してたからな。――シィ?」


《はあい! んじゃ、アマテラスくんっ、こっちこっちー!》


 どこがこっちなんだか俺にもよく解ってねえんだが、シィが呼び声を上げるなり、結界の中央、ハインの執務机の後ろ、以前俺が寝かされてたベッドがあった辺りの空間に、俺の異次元収納から吹き出した光の粒子が、強烈無比に収縮して――。


「…………!」


「こら、アマ公! ちゃんと挨拶、しろって! 俺のスカート引っ張るんじゃねえよ!!」


「……アマテラス。三貴神長兄、光の神」


 ぼそっ、と言うだけ言ったアマテラスの小僧が、また俺のスカート掴んだまんま、俺のケツの後ろに隠れやがって。


「……神族、か?」


「言わなかったか? タケミカヅチや俺やシンディ以外にも、この世界にゃたくさんの神族が降りて来てんだ。会ったことあるのか知らねえが、ヒトツメもそうだし」


「いや、情報としては得て居たが、正直に言えば、対面は不能だと思っていた。神力の痕跡は解っても、それを追えないからな、人間は」


 さすがに、俺ら以外で初めて見る神族に、ハインは驚きを隠せないみたいに驚嘆の眼差しを向けてるが……、一方で、腹の中では利用価値を探ってるはずだ。


「コイツは今自分で言った通り、『三貴神』、つまり三兄弟の長男坊だ。――コイツを、オマエに預ける。レムネアの弟だと思って、人間の世界の常識を与えてくれ」


「それは、構わないが。つまり、養子か?」


「ほっといたら、岩戸に隠れて何万年でも過ごしちまう人見知り激しいガキなんでな。せっかく世界に顕現してんのに、もったいなさ過ぎだろ」


「それは……、そうだろうが。レムネアも婚姻して不在がちになりつつあるし、レイメリアも喜ぶだろうが」


「オマエにも利点はあるぜ? コイツは『神族』だ。つまり、シンディの神器な俺、タケミカヅチの神器なレムネアと一緒で、一人だけ『神器』を持てる」


 今度こそ、驚嘆を超えて、愕然、って衝撃を受けたハインがそこに居た。


「無限の魔力、不死身の肉体……」


「オマエがどこまでコイツの心を開かせられるか、ってとこに掛かってるけどな? 見ての通り、超絶の人見知りのガキなんだ、コイツ。年齢で言えば、オマエや俺の数百倍は生きてるし。あと」


 俺のケツに噛み付くようにして鼻水とよだれをべっちゃりくっつけてるアマテラスの首根っこ掴んで前に押し出して、俺はしゃがみ込んで、すぐに俺の胸に飛び込んで来るアマテラスを片腕で抱き上げて。


「この通り、甘えん坊のガキで成長を止めちまってるもんでな、たぶん千年経ってもコイツはガキの姿のまんまだ。――育てられるか?」


「――確認しておくが。恐らくだが、神格だったか? それが、コテツより低いはずだ」


「よく勉強してんな? そうだ、コイツは俺に逆らえない。つまり、コイツの神器になるなら、当然上位の俺にも逆らえない」


 腕の中のアマテラスは、ハインの顔を見ようともしない。


 ハインは、相変わらず驚きを隠せないまんま、それでも脳内で計算を始めてる。


 それから、結構な時間が経ったように思う。


「――参った。コテツは権謀術数にも長けていると思っていたが、……負けた。潔く、オレは負けを認めて、コテツの下に付く」


「俺を盗賊ギルドの内部に組み込もうって、周りから攻めてたつもりなんだろ? 生憎だな、俺は縛られたり命令されんのが死ぬほど嫌いなんだよ」


「知っている。だから、周囲の人間が賛同すれば、身内を大事にするコテツはいずれこちらに寄る、と考えていた。……恐らくシンディ嬢も」


 アマ公を抱えたまんま、俺は肩を竦めて見せて。


「身内は大事さ。俺にとって、家族の絆だけが絶対正義だからな。――正直に言えば、俺が大事にする身内には絶対的な優先順位がある。人間はすぐ死ぬから大事にしてるが、だからって俺をそれで操れると思うなよ? ……エルガーとレムネア、アドンとサーティエが例外なだけさ」


《あれ、あたしは?》


『オマエは例外の特別の格別だ、愛してるぜ、シィ』


 つったら、なんかすげえ悶絶しながら不可視になっちまったけど。なんでだ? まあいいけど。


「先に教えとく。神器共通権能の『状態固定』が効いたら、ハーブの中毒症状は無効になるが、当然同様に酒には酔えねえし、その他の食物も摂取出来なくなるかもしれねえ。以前の俺みたいにな」


「だが、レムネアは食事が出来ている。下世話だが、ある程度の排泄もあるようだ。つまりは、これは神格の差だな?」


「だろうな。――神器の神術は、この世界に今顕現してる神々に伝えてある。そう数は多くねえが、俺やレムネアやオマエ以外にも『神器』がたくさん出て来るぜ?」


「世界の勢力図が、変わってしまうぞ?」


「へっ。さすが王族だ、まず軍事利用に結びつけやがった」


「無論、平和利用にも使えるだろう。無限の魔力ならな。しかし、コテツには逆らえない。つまり、コテツを懐柔した者が、世界の王になるということか」


「俺自身が世界の王になるって道筋もあるんだぜ?」


 にやり、と指摘した俺に、驚きから立ち直ったのか、同じく口の端を歪めたハインが、俺にしっかりしがみついてるアマ公に手を伸ばして来て……。


「……前途多難っぽいけどな」


「……うむ。今思い出したが、オレは子育ての経験がないのだった」


 アマ公が俺の首にしっかり回した手を、解かねえでやんの。


 オイ、ちょっと待てよ。話の流れ読めよ。


「――レイメリアに預けるしかねえんじゃねえのか?」


「――今でも尻に敷かれているのに、か?」


 いや、レイメリアに中毒症状の件を相談された辺りからなんとなく感じてたけど……、やっぱ、尻に敷かれてんのか、ハイン。


「それで? 交換条件があるのだろう?」


「よく解ってんな? 交渉の基本ってやつか」


 三十分近く掛かってあの手この手で抱っこの相手を俺からハインに変えたアマ公のせいで、俺たちゃなんでか肩で息してて。


「レムネアとタケミカヅチを、借りてく。いい条件だろ?」


「破格すぎる、と思っている。『たったそれだけ』で良いのか?」


「いや、そんなもんだろ。『俺の配下にオマエが入る条件』だぜ?」


「――オレは、コテツの下に付く。だが、盗賊ギルド全てがコテツの配下に付くわけではない。組織と個人は別だ」


「解ってるっつの。俺だって、俺個人の動きと商会は強く関係してねえからな。……あっちの話は『マキシ』を通せよ?」


「そうだ、それを尋ねたかった。当初の思惑では、『商会主マキシ嬢』の影響力を高めて貴族社会で対抗する予定だったはずだ」


 話はすげえ真剣なのに、ぐずるアマ公に変顔してるハインを見てるとなんかめっちゃ和むんだが。


「そりゃオマエとインシェルドの策謀だろ。俺の思惑がちょっと違って来た、っつか、商会は商会で、ガチで営業利益上げることにした。――手始めに、アントスを帝国全土で最も豊かな街にする」


「それは、素晴らしいことだ。帝国臣民として、歓迎も出来る。――しかし、思惑が変わった、とは?」


「国境を超えて侵攻する。つか、国境壁をぶち壊す」


「バカな!!」


「……大声出すからだろ。アマテラスー? そのおっさんは怖い人じゃねえんだぞー?」


 盛大に泣き喚いて抱っこから逃れようとするアマテラスがちょっとかわいそうになって来たわ。


「オレはおっさんではないと、何度言ったら。――補給線も伸び切って、既に物資輸送の略奪も発生しており、帝国国境線は現時点で限界だ。これ以上補給線を伸ばせば、前線が崩壊する」


「まだ、解ってねえみてえだな? 俺は、『身内にだけ優しい』んだぜ? ……国境線の向こう側で気勢上げてる莫迦どもは、敵だ。『俺たち』が敵を叩き潰して、何が悪い」


「……オレと、コテツでか? たった二人で……、いや、レムネアと、タケミカヅチもか? それとも」


 神族の力に思い至ったのか、少し混乱し始めたハインに、俺はいつもの『妖艶な笑み』を浮かべてみせて。


「俺と、オマエの親父……、『アーリュオス皇帝』でだよ。――話はついてんだ、半年後に侵攻開始すんぜ?」


 返事はなかった。っつか。


 今度こそ、ガチで目を大きく見開いて、ハインは絶句してた。




 権謀術数バリバリに上手(うわて)だったコイツを心底驚嘆させてやったぜ、ああ、スッとしたわ。



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