姉妹からチュートリアルを受けます
「お兄ちゃんやっと見つけたよ」
そういえばログアウトってどうやるのかなと悩んでいると門を潜ったところでそんな一言とともに正面から何かが突っ込んでくる感覚がした
声から大体のことはわかったので甘んじてその突進を体に受けたがあまりの衝撃に吐気を覚えた
「あれ、お兄ちゃんが柔らかい?」
後ろに手を回され吹き飛ぶことも許されなかった俺は衝撃の逃がすところもなく一身に受け止めてしまったようだ
だからといってあれは強すぎる
妹が何かを言っている気がするがそんなことに気が回せないほど…
「ヒャッてなにしてんだ」
「その反応はお兄ちゃんだろうけど、お兄ちゃんってじつはお姉ちゃんだったの?」
「お前の姉は楓姉一人だろ、なにわからないこと言ってる」
「でもこれって小さいけど胸だよね」
再度訪れたくすぐったい感覚に小さな悲鳴を上げてしまったがそこで妹が鷲掴みしているものに目を向けすぐさま反らした
「…また、VRは性別は弄れないのが普通だろ、なんで、いやこれは幻想だ、疲れすぎてみせヒャッやめろ、俺で遊ぶんじゃない」
「むふふ、ここがいいのかね、ここがってあぁお姉ちゃんいいところなのに」
「オヤジ臭くなってるからやめなさい、それに怒られる前に辞めないと痛い目見るわよ」
「あにき、その格好は色気出るからやめようぜ、ほら、周りもガン見してるし」
妹の魔の手から逃れるように自分の体を抱いたままへたり込んだことが悪かったのか弟の言葉を聞いて周りを睨みつけておく
何人も慌てて視線をそらすが合った時点でアウトじゃバカ者ども
「とりあえず場所移すぞ」
さすがに人ごみの中でこれ以上話したくないので三人を連れて人のいなそうな路地裏に移動した
改めて見た街並みに大きな城のようなものを見つけたが、ここは王都か何かだったのか
「さて、とりあえず二人は言うことはないのか」
「「ごめんなさい」でも、このゲームすごかったでしょ?」
反省の薄そうな妹に軽く手刀をかましながら三人を見回す
背中に大きな槍を背負い革製の部分鎧と靴に手袋を着た赤髪の姉
左腰に70㎝程の剣を二振提げた姉と同装備をした金髪の妹
鉄製の全身鎧を着込みその両手に半分に割れた大盾をつけた白髪の弟
見た感じPTバランス悪そうだなおい
「ゲームバランスは疑うけど作りは確かにすごいなこれ」
「そうよね、王都付近の草原はたいしたことないけれど他の場所に行くと途端に強くなるのよね」
「ねー、βテストのときなんてそのせいでほとんど周りが未開拓だしね。特にウルフの森は開拓まったくされないし」
「やっぱりか、さすがにあの群で来られたら上のランクでも難しいんだな」
「いや、違う違う、ウルフ単体がそもそも強いの。体力高いし機動力あるし、攻撃力まであるとか前半の敵じゃないよ」
「その口ぶりだと姉貴はその森に行ったんだな」
「姉貴に物申したいがこっちではしかたないか、そうだよ、狼に4人PTが蹂躙されるのはみたぞ。あれは調整間違ってるな」
「いや、遠巻きでも巻き込まれないで見てたお姉ちゃんがおかしいんだけど」
やっぱりあそこの設定は間違ってるんだよなとしみじみ思っているとなにやら呆れている二人がいるがそんなものは無視だ
「お姉ちゃんはそれよりも初期装備を変えてない弟に疑問が尽きないんだけどね」
「え、だってお金ないし銃もなかったからとっとと鉱山さがしに行こうかと突き進んでたんだけど」
「いや、まってお姉ちゃんもしかしてチュートリアルスキップしたの、βテスターだってそんなことしないよ」
「ということは姉貴メニューとかアイテムストレージもわかってなさそうだぞ」
なにやら溜息を吐く三人だが、仕方ないじゃないか。銃を用意しなかった運営が悪い
「いくら銃好きでもまさかそこまで暴走するとは予想してなかったよ」
「そうね、よっぽどゲームしてないときの反動がきたみたいね」
「とりあえず二人で簡易チュートリアルしてあげろよ、さすがに姉貴がいくら上手いからってこの状況はまずいし」
どうも俺の状況がとにかく悪いらしい
チュートリアルいつもそんなに重要なことないのにこのゲームは別なのか
「わかってないみたいだから簡単に説明するね、とにかくメニューを開くってニュアンスのことを思うか口にして」
たしかにそこまで重要性が分かっていないがそこまで力みながら説明しなくてもいいだろう
その姿勢にすこし引きながらとりあえず『メニュー展開』と思っておく
すると前にあの操作パネルが浮かんできた
「その目を見るに出たみたいね。上からマップ、ステータス、持ち物、装備、メール、フレンド、トレード、PT設定、ログ、掲示板、ログアウトになっているよね」
ざっと目を通し姉の言う通りになっていることを確認しうなずく
「マップはそのまま歩いたところがマッピングされていくの、マップにメモも取れるから重要施設を書いてもいいよ。ステータスはスキルの入れ替えや取得、進化・派生の確認ができるからちょくちょく見ることをお勧めするね」
白紙の目立つマップからステータスを開きどのようになっているかを確認する
何気にスキルレベルが上昇しているが高いのかどうかわからないので一旦無視して次の説明を促す
「お姉ちゃん、あんまりステータス画面は流し読みしない方が得だよ?初めはスキルレベル上がりやすいから上限になってて損した―とか分岐がどうたらーとか起り易いんだからね?」
なにやら妹が心配してくるが今は記憶にとどめるだけにして説明を聞き終わってから確かめるので問題ない
「次は持ち物だけど、持ち物欄からバッグの具現化を押してみて、その状況で買った物を中に入れればストレージに入るから。手を入れれば出したいものを浮かべれば出てくるからね」
小さめのウエストポーチが手元に現れたので試しにアイテム欄にあったポーションを取り出し再度しまう
しまう時に角度とポーチの開きを調整して明らかに入らないだろう状況を創り出したがポーションの瓶がチャックに触れた途端に手から消えていき驚く
「このポーチ便利だな」
「逆にそうじゃなかったら装備品が中に入らないじゃん」
それもそうだと納得し入っていた初心者の杖を取り出してみる
「あ、装備だけどメニューの装備から弄らないとステータス反映されないみたいだから気を付けてね」
装備画面を開いてみると装備項目とアイテム欄が同時に出現した
アイテム欄から初心者のローブを外装にドラッグアウトしてみるとフードの付いた黒いローブが突然現れた
「ローブだからいいだろうけど、鎧とかいきなり出てきたときはシャレにならなかったから気をつけてくれよ」
弟の遅い忠告に苦笑い気味に返して初心者装備を装備して一つその場で回ってみる
膝まであるローブが少し邪魔かと思ったが問題なく動けそうなのでよしとしよう
「最後にお金だけどトレードの時にやり取りするときはいいけど、NPCのお店ではポーチから取り出して渡さないといけないからね」
ステータスに10000G入っていたのは確認したのでとりあえず金欠はなさそうだ
にしてもたしかにメニューが判らなかったら大変だったな
しかもご丁寧にメニュー欄にこちらの時刻とあちらの時刻が刻まれていたからメニューの大切さがよくわかる
「確かにこれはチュートリアル必要だったかもな」
「後のメニューはそのままだから説明しないけど、あとは戦闘面の説明とかだったから省略しますね」
「このゲームHPとかMPとかの表記ないんだな」
「あぁ現実世界での死亡要因がくると死んじゃうし、隠しステになってるのかHPが削られても死んじゃうからタンクの大変さが異様なんだよね」
「そんな仕様ならタンク選ばなきゃよかったよ、ただでさえゲーム慣れてないってのによ」
「お前ならダメ喰らわないとか平気で起こりそうだから嘆くことじゃないぞ」
「ちょ、お姉ちゃんそれフラグ」
そうしてお昼になるまで談笑しながら時間を過ごした
PTチャットに変えると周囲に音漏れすることがないそうなのでこちらでのことに留まらずあちらのことでまで話が盛り上がりこういうのは悪くないなと思うのだった
プレイヤー:ナツ
スキル:メイン10(SP9)
『気配12』『回避3』『素早さアップ12』「隠密20」『察知3』
『魔法:火13』『忍び足20』『目10』『足12』『魔力回復7』