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五本場12

 土建屋と中野が入れ替わっただけで、後はそのまま対局が始まった。起家は中野、後はサラリーマン、板前、七海の順である。

 七海はイチニイヨントオを確認している中野の顔をチラリと盗み見た。自分は中野よりも遥かに早く部室を出た為、後を着いてきたという訳では無いだろう。たまたまこの店を訪れたらしい。

 巷ルールでは中野の方が賢俊である。だが絶対が無いのも麻雀である。この間は好い様にやられてしまったが、今回はそう簡単には負けない。しかし、その為にはやはり対面に座るサラリーマンを対策しなければならない。

(何とか……しなくちゃ)

 中野がいつから店に居たのか定かでは無いが、恐らく前回の対局を見られているはずである。これ以上無様を晒したくは無い。

 七海の苦悩は溶けぬまま、対局が始まった。


 東一局、ドラ①。親は中野。

 こうやって校外で中野と打つのは二回目である。あの時は癖を読み切ったと思ったが、逆手に取られて逆転負けを喫してしまった。その時の忸怩たる思いは忘れ得ないが、先ほど中野の姿を見た時に不思議と安心感を覚えた。

 競技者としての自分が及ばない領域にいる相手でも、中野ならどうにかしてくれると勝手に思い込んでいるのだろうか。

 中野が高い技量を持っている事は自分も認識しているところだし、意識はせずとも自分は中野の事を認めているのかも知れない。

 迎えた六巡目、七海はサラリーマンの捨て牌が染め手の傾向である事に気付いた。


368四六發


 ドラ色の筒子で混一色か清一色だろうか。初牌の發が出てきたのであれば一向聴はあるだろう。

 中野は鳴かせまいとしているのか筒子を絞っているらしく、サラリーマンの視線は中野の捨て牌を追っているようだ。

 同巡、七海の手牌は以下の形。


三三⑤⑥⑥⑦2345568 7


 絶好のツモであるが、テンパイするには危険牌筆頭の⑥を切らねばならない。

(⑥切りでテンパイ……けれど⑥は対面に切り辛い。それより一旦5を切って、⑥のくっ付きテンパイにする方が……)

 真ん中のバッタ待ちよりは一盃口に切り替えた方が上策であろう。七海は一旦一向聴に戻す為、5を切った。

「ロンです」

「え……」


①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨⑨34


「八○○○点です」

 サラリーマンの手は染め手ではなく、索子待ちのピンフ一通であった。

「筒子が鳴ければ跳満あったんですけどねぇ」

 確かに染めれば跳ねる手ではあるがリーヅモにすれば跳満なのだからわざわざ染めようとする必要もあるまい。あの鳴き気配は索子を誘い出す為の演技ではあるまいか。再三やられているだけに七海はついそう考えてしまった。

「その捨て牌じゃ索子は出るだろうなぁ」

 中野はフォローしてくれているようだが、七海からしてみれば屈辱であった。

 七海は八○○○点分の点棒を差し出した。

 東二局、ドラ中。親はサラリーマン。

 一巡目にサラリーマンが⑨を捨てたのだが、中野がそれをすかさず喰った。

(親の一打目をポン?リーチが来たら苦しくなるのに……となると、ドラが対子で入ってると見て好い)

 中野のひと鳴きで場は一気に逼迫した雰囲気になった。ドラを一枚抱えている者は受けに回るだろう。

 サラリーマンも例外では無いようで、字牌と筒子は出さなくなった。


 その後中野は鳴けないのか動きもなく、七海の手牌は九巡目で以下の形となった。


四四五②②②④222456 六


 四か④切りでタンヤオテンパイである。

(普通なら両面に受けて④切りだけど、中野くんが混一色だったらこの牌は危ない……ひとまずは)

 まだ三色の受けもあるし、一旦仮テンに受けて様子を見る事にした。

 七海がテンパイした直後、中野は七を手出しで切って来た。

(この巡目で萬子の手出し?しまった、当たり損ねた……いえ、それより中野くんは混一色じゃなかった……チャンタか対々?)

 中盤になってもまだ萬子を持っていたという事はまず混一色では無いだろう。七の側が対子で、対々和かチャンタであろう。

 中野の七切りを受けて、サラリーマンの手牌は以下の形。


二三③④⑤⑥⑥⑦⑧111中 四


 テンパイであるが、⑨を鳴かせている為、中を切ると三面張とはいえフリテンになってしまう。かと言って中が切り辛い事にも変わりは無い。

(この巡目で七が切られたから混一色は無い。恐らくはチャンタと対々の両天秤に掛けていて、チャンタになれば八を切って六ー九待ちにする予定だった……というところでしょう。となると、字牌と萬子のシャボが一番怪しいですねぇ)

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