五本場11
南四局オーラス、ドラ②。親はサラリーマン。
七海は現在一七七○○点のラス、トップはサラリーマンの三七六○○点である。満貫を直撃しても、跳満を親被りさせてもひっくり返らない点差である。
(逆転するためには跳満直撃か倍満ツモ……かなり厳しい)
普通に考えればトップは安泰である。七海は配牌をめくった。
一二五九④⑥2899東南發
まるで話にならない。逆転は愚かテンパイさえも厳しい。七海は6をツモり、とりあえずは九を切った。
一応は手成りで進めていた七海であるが、八巡目にサラリーマンがツモって手を止めた為、そちらに視線を向けた。
(テンパイ……?)
「う~ん……リーチ」
サラリーマンは悩んだ末に曲げて来た。
「トップ目がリーチか」
サラリーマンの下家の板前がそんな事を言いながら現物を切った。
「トップ目だからこそ、ですよ」
となると、恐らくは棒テンではなかろうか。悩んだのは恐らく手変わりを待つか即リーするかを悩んだのだろう。
(役があるならリーチはしないはず……押さえ付けの意味も含めて、出和了り不能は確かにぬるい)
七海はとりあえず現物を打った。
二巡後、安牌が尽きた七海は河を見渡し、序盤に一枚切れている發に目を付けた。
(發と何かのシャボも無くはないけど……それならポンテンまで待つか、あるいはオリ用に取っておくはず……リーチした以上役牌待ちはありません)
七海は發を切り出した。
「ロンです」
三四四五五六⑥⑦⑧東東發發
「裏無しで三九○○。終了です」
「なっ……」
役無しどころではない、王手飛車のシャボ待ちである。となると、サラリーマンはわざと悩むふりをしてリーチを掛けたという事になる。普通にリーチされればまだ役牌も警戒したかも知れないが、手変わりがあるわけでもない手で悩むとは、手の内を読んで来る相手にこそ有効な『演技』である。
芸達者のサラリーマンがトップ、七海はラスで終了となった。
その時土建屋の携帯が鳴り、ディスプレイを見た土建屋は急に顔をしかめた。
「やべぇカァちゃんだ。ゴメンマスター、俺帰らなきゃ。大丈夫?」
「大丈夫、また来て下さい」
慌てて帰って行った土建屋に代わり、中野が席に着いた。
「あ……」
「よっ及川、負けたみたいだな」
そこで初めて、七海は中野が来ていた事に気付いた。




