五本場9
しかしこっちの勇み足なのだから文句は言えない。七海は黙って跳満分の点棒を差し出した。
(いきなり跳満放銃は痛い……何とかしなくちゃ)
空モーションに引っ掛かってしまった事は悔しいが、このままでは点棒的にもまずい。ひとまず放銃してしまった点棒を取り戻さなくてはならない。
東二局、ドラ白。親は七海。
六巡目、土建屋が4を切った。
「ん……いや失礼。チーで」
サラリーマンはツモろうとした手を一瞬止め、その4を23でチーした。そしてドラの白を切り出して来た。
(白は初牌……さすがにテンパイしてるはず。染め手ではないようですが……喰いタンと赤?あるいは三色……)
その時の七海の手牌は以下の形。
五五六七①②③④⑧⑧345
ここに四をツモって来た。
(メンタンピン赤、満貫テンパイ……ツモって裏が乗れば跳満になる)
対面は喰いタンであろうから、切りたい①は通るはずである。七海は①を掴んだ。
「リーチです」
「おっとロンです」
七海はリー棒を出そうとしたが、対面の意外な和了り発声に思わず顔を上げた。
一二三②③123白白(234)
「三色ドラドラ、三九○○」
「なっ……」
七海は思わず対面の手牌を凝視した。普通はこうは鳴かない。鳴いたとしても白を暗刻にしたまま一旦②か③の単騎待ちに受けて、手変わりを待つのが正着だ。
(ドラを切ってまで喰いタンを臭わせて①で和了り……)
これはつまり、またしても嵌められた事を意味している。一度ならず二度までも、この対面、温和そうな態度であるがとんだ喰わせ者だ。
取り返すどころか更に傷を拡げてしまった七海は、歯噛みする思いで点棒を差し出した。
七海はその後、子で五二○○と、南場の親で二○○○オールを和了り、点棒をそこそこまでに回復させた。
場は回って南三局、ドラ三。親は土建屋。
(何とか二○三○○点にまで戻した……トップは対面の三五○○○点……)
満貫を直撃するか跳満をツモれば逆転出来るが、まだ対面のラス親が残っている。無理に今点差を縮めようとするよりは、とりあえず小さい点を和了っておいて、オーラスで親被りさせて逆転を狙う方が好いだろう。
「うーん……」
サラリーマンは悩んでいる様子で、しばらく考えた後、向かって右から二番目の牌を捨てた。その牌は②であった。
そこで七海はふと今日の部活での出来事を思い出した。あれは恐らく①②の偏張を落とそうとしているのではないだろうか。悩んでいたのは偏張で即リーするか、あるいは手を伸ばすかを考えていたのだろう。
七海はそう考え、板前が切った後にツモった。
その時不意に店のドアが開き、客が一人、店内に入って来た。




