五本場7
少し時間を戻して、部活が終わった直後の部室。沙夜と夕貴は帰宅したが、牌掃除の当番である中野は牌を磨き、それに付き合っているのか、彩葉も居残ってカップなどを片付けていた。
中野の牌掃除の手付きは非常に卓越しており、寸分の無駄も無く的確に牌を整えて行く。職人の技を見ているかのようであった。
「ちょっと訊きたいんですけどよろしいですか?」
「ん?」
不意に彩葉が声を掛けて来た。中野は牌を磨く手は止めず、返事だけ返した。
「今日及川さんに課題を出してましたけど……あれは何故直接答えを言わなかったのですか?」
「んー……何て言うかな。及川は好くも悪くも真面目だから、言われた事をずっと気にするタイプだと思うんだよ」
「それで自分で答えを出させようとした、という事ですか」
「自分で答えを出せたなら納得するだろうと思ってたけど、部長が先に出しちまったからな……今頃考えながら歩いてるさ」
「中野くんは部長の私より及川さんの事を知っているんですね」
牌を磨いていた中野の目の前に、不意に部長が顔を近付けて来た。目を細め、口を横に引き伸ばしているその表情はいかにも読み辛い。
「……アイツは分かり易いよ」
「ふーん、そうですか」
そう言いながら彩葉は近付けていた顔を離した。
「乙女の指先雨三寸、と言いますけど、傘を持っていても差さずに歩くタイプなんですね、中野くんは」
「現代にはレインコートってのがあるからな」
不意に雨音が強くなり、沈黙を迎えた部室内にひどく響いて聴こえた。




