一本場9
「リーチか……ポンしとこう、一発は消しとくよ」
七海の下家が宣言牌の⑧をポンし、安牌の北を切った。一発は無くなった大して問題としない。
中野は現物の三を切る。七海の上家も現物、そして七海のツモである。何となく盲牌してみるが、索子であることが分かった。七海がツモった6をツモ切り、場は進んだ。
そして十二巡目、七海はツモれず、②をツモ切りした。
「ロン」
不意に手を倒したのは、中野であった。
五五五②③③④④234發發
「一盃口赤、二六○○の一枚」
これはいわゆる和了れる方である。七海のリーチを警戒してダマテンにしていたのだろうが、いささかもったいない気もする。
「二六○○……と一枚」
七海は点棒と、百円玉一枚を中野に差し出した。中野の捨て牌の横にそれを置いた時、七海はあることに気付いた。中野は四巡目に四を切っている。七海がドラツモで三を切った時と同じ巡目である。
その後リーチを掛けた七海に対し、中野は現物の三を手出しで切っている。四を切った時から五の暗刻はそこから動いていないため、三四五五五の形から三四を切っていることになる。これにはいささか違和感を感じた。
(普通なら發を対子落とししたり、あるいは一盃口の未完成の塔子を落として三色と役牌の煙突待ちを狙っても好いのに……なぜ四を切ったんでしょう)
中野が点棒と百円玉を受け取り、しまうのを見ながら七海は考えた。そして牌を流す際、自分の手牌に目が行った。そう、ドラが重なり、四巡目という早い巡目で三を切った。
(なるほど……三や七の牌は使用頻度が高いから早めに出るのは染め手や七対子の時が多くなる。でも私は字牌を連打してるし、その後三が飛び出してくれば、手が好形だと分かる。萬子の上目が好形か、ドラが重なるか……それで二がもう残り少ないと判断して四、三を切ったんですね)
もしそうだとすれば中野は結構な打ち手であるということになる。一見邪道な打ち筋でも一応理屈は通っているし、こうして攻めを巧くかわして和了っている。
しかしながら、七海はやはりそのセオリー通りとは言い難い打ち筋が気になった。ドラが少ないと分かったのはまあ好い判断だったとして、それでも普通ならドラ受けを諦めて發を落としてタンピン一盃口にすれば好いだけの話である。残り少ないとはいえドラを引ける可能性もあるのだし、わざわざ入り目を減らし打点を下げてまでそのように打つ必要はない。
何らかの意図があるのかも知れないが、七海はどうも釈然としなかった。