五本場5
自分は捨て牌や自分の手牌から、相手の待ちや山に残っている牌を推測する打ち方をメインにしている。牌を切り出す位置や、相手の理牌する際のクセなどは全くと言って好いほど気にした事はない。
しかし言われてみればその通りである。牌を切り出す位置から、手の内を予測する事はある程度可能である。
「まあそんな事気にしなくても及川は充分強いんだし、あんまり深く考える事はないだろうよ」
七海の心中を察してか中野がそんな事を言ってくる。あるいはフォローしてくれているのかも知れないが、それは自分にとってあまり好い意味ではない。
その対局は彩葉がトップで終了し、以下中野、沙夜、夕貴の順であった。
「及川、交代するよ」
二抜けで交代する決めである為、二位の中野が七海と席を代わろうとするが、七海はそれを制した。
「いえ……結構です。もう一度このまま観させて下さい」
「そうか?珍しいな、及川が打たないなんて言うのは」
中野に限らず他のメンバーも同じ思いだったようで、驚いたような表情を浮かべている。
(実際に打つよりは外から見ていた方が分かり易い……このままもう少し見ている方が好い)
特に中野の打ち方は至極気になるところで、七海はもう少しそれを見ていたいと考えた。中野は交代しない七海の様子を見て肩をすくめたが、また席に戻った。
部活は終了し、それぞれに帰途へと着いた。相変わらず雨が降っている為、七海は白地に空色の縁取りが施されたお気に入りの傘を差して商店街近くを歩いていた。
しかし今日はお気に入りのはずの傘もイマイチ意識に入って来ない。学校を出てから考え事をしっ放しで、アーケードのある商店街に入ったにも関わらず傘を差しっ放しだった。
商店街に入って少々経ったところで七海は気付き、傘を閉じた。辺りは学生が多い。
七海は道の真ん中に配されている、近代的なデザインの金属製のベンチに腰掛けた。骨組みしかない構造で、太めのパイプが座面の代わりとなる。
行き交う人々の中で、七海は今日の部活での出来事を思い出した。
初めて中野と打った時、中野の打ち方に対して否定的な印象を持った事がある。自分は純粋に競技麻雀だけで育っている為、論理的ではない打ち方は無意識の内に否定してしまうのだろう。
逆に中野は、雀荘に顔が広く、その辺りから察するに普段は大衆ルールで打っているのだろう。
フリーとなると、純粋に勝者を決める競技麻雀とは違い、コミュニティとしての要素もある。打ち手の些細な言動から手の内を読むという事も可能なのかも知れない。
彩葉が手牌の左側に萬子を並べるクセがあるという事もその一例である。
つまりは他人を見て打つという視点から見れば、中野は自分よりも遥かに秀でているという事になる。
七海はそれが、悔しかった。




