五本場4
「④をツモった時、何故五を切ったんですか?」
「ん?ああ……部長、五か六の対子持ってるんじゃないか?」
「ええ、五の対子があります」
中野の読み通り、確かに彩葉は五の対子を持っていた。
「五が対子ならノベタンは期待出来ないし、六が対子でもカンチャンは引けないだろうから五切りしたんだよ」
「し、しかし何故五六が対子だと?」
そう、それを察した理由が分からないと説明にはならないのだ。
「そこまでは教えられないな、チャンピオン」
中野は皮肉っぽい表情を浮かべながらそう言った。七海はむっとし、しかしそれ以上は訊かなかった。訊けなかったというべきかも知れない。
「私もその理由興味ありますね。後で教えて下さいませんか?」
手の内を読まれた彩葉も負けじと中野に絡んで来る。中野は肩をすくめた。
「なら正解が出たら教えるよ」
もったいぶるのは要するに自力で答えを導き出せという事らしい。中野は再び卓上に姿勢を戻し、牌を流した。
釈然としないまま、場は南二局を迎えた。七海が彩葉の手牌を眺めていると、八巡目である違和感に気付いた。
一一二三四六七八九3444 五
ドラは九、ここから一を切れば一通確定である。
(一切りでリーチを掛ければ満貫確定、高めツモなら跳満……)
他家からリーチは掛かっていない為、十人いれば十人が一を切るだろう。がしかし、彩葉は少し考えたのち、3を切った。
(3切り?三面張とはいえ待ちは自分で四枚使ってるし、一通になるのは薄い一だけ……)
枕を索子にすれば好いのに、何故そんな非効率的な捨て牌を選んだのか。七海は中野の手牌に視線を移し、その答えに気付いた。
一四五六⑤⑤⑥⑦⑧5567 6
中野は直前に二を切っている。偏張落としの途中だった訳だが、余った牌がズバリ彩葉の当たり牌なのである。
好形でテンパイした中野は、予定通りとでもいうように一を切った。そして彩葉は、それを予感していたかの様に手を倒した。
「ロン、五二○○点です」
「ん、テンパイしてたか……いや、さすが部長だな」
結果的に言えば彩葉は中野の偏張落としを読んでいた事になる。偏張を落とすとなればセオリーでは内側から切る為、タンピンの捨て牌であれば二の次は一が出て来ると読む事はさほど難しい事ではない。
「左から二番目から二が出て来ましたから、次は恐らく一が出て来ると思いました」
彩葉は点棒を受け取りながらにこりと、いや、にやりと微笑んだ様に七海は見えた。
「さすがだな部長、及第点だよ」
「えーなになに?何二人のセカイに入っちゃってんのー?」
盛り上がる二人を茶化す様に、夕貴がいやらしい笑い顔を浮かべてその中に割り込んで来た。七海でなくとも気になるらしい。
「先ほど中野くんが私の手牌に五の対子があると見抜いた事を覚えてますよね?私は中野くんがどこから何を切ったか、という事をヒントに一を狙い撃ちしました。つまり、中野くんも私の『切り出し方』を見て、五の対子を見抜いたという訳です」
「部長は萬子を一番左に並べるクセがあるからな」
そこまで聞いて、七海はピシャリと何かが弾ける様な感覚を覚えた。




