五本場3
(ついにこの時が来ました……インターハイの前哨戦とも言える地区予選が)
大会要綱を食い入るように眺めている七海は静かに闘志を燃やしていた。全中チャンピオンとして、その意気込みたるや半端ではない。
「オーダーを今週中に大会本部に送らなくてはなりません。今日はその要綱を持ち帰って好く読んでおいて下さい。明日また話し合ってオーダー決めたいと思います」
試合中に於けるオーダーの変更は許可されない為、オーダーを決める会議は非常に重要になって来る。部長であるとはいえ彩葉の独断でおいそれと決められるものではない。
「では会議はこのくらいにして、後は打ちましょうか」
全員が得心したところで、会議を切り上げて対局する運びとなった。
いつものように白抜きで抜け番を決める。白を引いたのは七海であった。
「……私が起家、後は中野くん、平坂さん、名古さんの順番ですね」
七海は打ちたくて仕方なかったが、白抜きは部内のルールなのでこればっかりは文句を言えない。大人しく見学用のパイプ椅子を開き、差し当たり彩葉と中野の手が覗ける位置に陣取った。ルールはもちろんインターハイルールを用いてシミュレーションを行う。
東一局、ドラ中。親は彩葉。
七海から見える中野の手牌は、五巡目にて以下の通り。
二三四五七③③⑦2467中 3
手格好は中々好い。ドラを活かすのは難しそうだがタンヤオなり三色なり狙えそうだ。
(⑦切りか、あるいはドラを手放すタイミングか……私なら⑦を切って一向聴に受けますね)
ドラの中は生牌だし、切るならテンパイしてからでないと、鳴かれた時に苦しくなる。
七海はアールグレイを舐めながら中野の手牌を眺めていたが、七海の予想とは裏腹に中野が切った牌は③であった。
(③切り?雀頭が無くなるのに……234か567の三色狙い?)
だとしても非効率的である。何の綾も無い東パツであるとしても、だからこそ確実に和了って安くとも点を手にするべきである。
そこで七海は彩葉の手牌に視線を移した。
五七⑤⑤⑥⑥⑦7889中中 五
(部長は一向聴……七対子ドラドラか、一盃口ドラドラ……)
④⑦か六ツモなら8切りリーチだろうが、このツモには悩む所である。彩葉は少し考えたようであったが、七を切った。
(中のポンテンか七対子……初牌のドラはまず鳴けないだろうから、七対子が本線ですか)
七海は続いて下家の中野の手に視線を移した。
二三四五七③⑦23467中 ④
(好いツモですね。三色とタンピンが見えますが……何を切るか)
さすがに567三色は見切り時であろう。自分なら⑦を切ると七海は考えたが、中野は五を切った。
(萬子を切るなら普通は七切りなのでは……相変わらず読めない)
七海にとって中野の不思議な打ち筋はまるで邪道であった。次巡、中野は②をツモり、⑦を切った。
二三四七②③④23467中
三色確定、門前ならまず満貫は堅い。中野は更に次巡、5をツモった。
(タンヤオ三色か、三色ドラ単騎……まだ中は初牌だし、親の闇テンを警戒するなら現物の七切り。中は部長の二枚持ちだから、中単騎では和了り目がほとんど無い……)
中野は強気に、中を切った。
「ポンです」
すかさず部長が中を鳴いた。そして8切り。
五五⑤⑤⑥⑥⑦789(中中中)
④-⑦待ちの一一六○○点である。こうなれば他家は迂闊に攻められない。しかし中野は親の現張りをしている為、和了れる可能性で言えば一番高い。
(もし自分が同じツモで打ったとすると……)
七海は中野の手牌とツモを思い出し、自分が打った場合を想定してみた。
二三四五七③③⑦2467中 3 →⑦切り
二三四五七③③23467中 ④ →③切り
二三四五七③④23467中 ② →七切り
二三四五②③④23467中 5
テンパイするタイミングは同じであるが、高めの薄いノベタンか、これまた薄い中単騎である。
(567があるから⑦を残していたのは分かりますけど……④ツモの時に五を切ったのは一体……)
七海の疑問は昇華しないまま、中野は南をツモ切り、そして夕貴のツモになった。
一一四六七④⑤⑥78白白白 9
(せっかくテンパったのに!部長がドラポンだし、待ちは悪くなるけどここは慎重に……)
夕貴は彩葉の現物である七を切った。しかしそれは中野の当たり牌である。
「ロン、五二○○点……だな」
「あちゃ現張りかぁ。まあ部長に打ち込むよりはまだ好いけどさ」
結果的に和了った中野ではあるが、七海はいささか腑に落ちない。点棒の授受が終わった中野に、七海は声を掛けた。




