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四本場34

「僕たちの子供にならない?」




 ───後はセンパイ次第だよ




 中野の言葉の意味がようやく飲み込めた。どういう経緯かは知らないが、中野はこのことを知っていたのである。

「養子になってくれれば一緒に暮らせるし、ホラ、麻雀だって打ち放題だよ」

 自分が鳴き麻雀になったのは、他人の気を引く為だったのだと沙夜は思った。でもこうやって自分のことを見ててくれていた人がごく身近にいたのである。

「もちろん今すぐに決めなくても好いけど……」

 鳴き散らかして自分だけが和了れれば好いと、他人の思いに気付かなかった自分が恥ずかしい。そのことを教えてくれたのは、他ならぬ、彼の人である。

「……沙夜ちゃん?」

 押し黙ってしまった沙夜の顔を木村が覗き込んで来る。

「うぇっ……」

 沙夜が持ち上げたその顔は、感極まった涙でグシャグシャに崩れていた。普段表情の変化に乏しい沙夜も、この時ばかりは感情を爆発させた。

「好いんだよ思いっ切り泣いて。今まで淋しかったよね。これからは家族だよ」

「……うん……」

 木村は沙夜の頭を抱えて撫でてくれた。沙夜も他人の温かさに触れ、木村の胸の内で思いっ切り泣いた。いつまでもいつまでも、泣いていた。



「そりゃ!コブラツイスト~!」

「あだだだだギブギブ!」

 何がどうなってそうなったのかは不明だが、部室で中野が夕貴からコブラツイストを掛けられていた。中野は左手で夕貴の肩の辺りをタップしている。

「ちょっと打たないなら静かにして下さい!何切るに集中できません!」

 七海は本に向かって座学中であり、そんな部員の様子を見て彩葉は微笑みながらティーカップを傾けていた。

「……何してるの」

 沙夜はカオスな部室内の雰囲気に呆れながら中に足を踏み入れた。

「いててて本気で締め上げないでくれよ」

「あっ沙夜~、今日遅かったね」

 夕貴は満足気な表情で額を拭い、沙夜の方に笑顔を向けた。大方夕貴がテレビか何かでコブラツイストを見て、それを掛けてみたいとでも言い出したのだろう。

 夕貴のフィニッシュホールドから解放され、乱れた服装を直している中野に、沙夜はそっと近付いた。

 不意に、沙夜は中野の脇腹辺りに抱き付いた。

「おっ、名古センパイどうした?」

「おっ!沙夜もコブラツイストやる?」

 沙夜が中野に決めるにはあまりにも体格差があると思われる。

「……ありがと、感謝してる」

 沙夜は中野の顔を見上げ、そっと呟いた。中野は何も返事はせず、撫でられているいつもとは逆に、沙夜の頭を撫でた。




 麻雀の打ち方だけではない、大切な何かを教えてくれた。


 感謝してもし切れない想い。


 いつもの部室も今日は何だか違って見えた。


 沙夜は賑やかないつものメンバーに向かって言った。




 ───ね、早く打とうよ───




 

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