四本場24
沙夜が自作サンドイッチを食べ終えた頃、休憩室にひょっこりと木村が現れた。どことなく高揚しているような雰囲気に見える……のは、沙夜の気のせいかも知れない。
「沙夜ちゃん、今日は店、五時に閉めちゃって好いから」
そう、今日は木村と再び麻雀を打つ予定になっている。そのために閉店時間を早めるとの事である。そういえば今日はどこで打つのかは訊いていなかったが、またこの間の店で打つのだろうか。
まあ打つ段になれば分かるだろうと、沙夜は昼休憩もそこそこに店舗の方へと引き返した。
さて五時になり、店舗の方も粗方片付き、いざシャッターを下ろそうと沙夜がドアに近付いた瞬間、鈴が鳴ると同時にドアが開いた。
「あ、すいません今日はもう……」
閉店、と沙夜は入って来た客に告げようとしたが、客の正体を確認すると沙夜は驚いた。
「よっセンパイお疲れ様、またお邪魔するよ」
客の正体とは、またしても現れた中野であった。
「今日は……特注……無かったはず……」
「いやいや、今日は客じゃなくてゲストさ」
前回は身内の誕生日祝いだとかで特注のケーキを買って帰った中野であったが、今日はゲストとして訪れたという。一体何のゲストだろうか。天然のおばさんとトークするのだろうか?
「やあ中野くん待ってたよ。店の片付けがもうすぐで終わるから裏でちょっと待ってて」
木村が中野の声を聞き付けて、店舗の方に現れた。沙夜は了解した。木村が中野を呼んだとなれば麻雀のメンツ以外にはあるまい。となると、後一人は木村の奥方であろうか?
沙夜は中野が店から出て行くのを見送り、残った作業を手早く終わらせた。
さてすべての閉店作業も終え、沙夜は休憩室のロッカーに預けていた荷物を取り出していた。そこに木村が姿を現した。
「沙夜ちゃん、今日はウチの方に来てもらえるかな。荷物はまだ置いてても好いよ」
「ウチ……?」
一階は店舗と厨房なのだが、二階は木村夫婦の住居になっている事は知っていた。そこに来いというのだろうか?
「中野くん、好いよ」
木村は裏口にいるらしい中野に声を掛け、中野も休憩室へと入ってきた。休憩室の隅には『STAFF ONLY』と書かれたプレートが提げられたドアがある。三人はそこへ足を踏み入れた。
ドアを開けたその先は土間となっており、脇に小さな下駄箱、土間から先は階段となっている。木村や奥方が出入りしているところをたまに見掛けるが、じっくりと見るのは沙夜も初めてであった。
「さあさ二人とも、遠慮せずにあがって」
先に立つ木村に促され、沙夜は階段をあがろうとした……が、ふと気付いて中野の方を振り向いた。
「……」
「へいへい分かってますよ、あがり切るまでは見ません」
「ん……見たらひっぱたく……」
要するに、沙夜は今日、スカートなのである。




