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四本場22

 中野はどことなく不思議な感じがする。掴み所が無いというか飄々としているというか、根暗な自分もそういう意味では五十歩百歩かも知れないが、他人と距離を詰め過ぎず離れ過ぎず、要するに誰とでも話せる人間であるようだ。

 そんな中野だが、身内の誕生日のためにケーキを用意するなんて、中々家庭的な一面もあるらしい。

 しかし木村が中野に仲介を頼むほどの頼み事とは何なのだろう。直接自分は関係無いにしても、多少気になるところである。

 沙夜は残り一つになったラズベリージャムのケーキを見詰めながら、そんな事を考えていた。


 いつものようにバイトが終わると、木村が店舗の閉店作業をしていた沙夜の元を訪れた。

「沙夜ちゃんお疲れ様。好かったらまた、今週も打てないかな?」

 木村は言いながら右手の指先をすぼめる仕草をしてみせた。また麻雀をしようというだ。

「ん……良いよ……」

「いやぁ好かった、この間は勝たせてもらったからお礼をしなきゃね」

 謙遜なのか本音なのかは定かではないが麻雀を打つ事は吝かではない。

「じゃあまた詳しく連絡するから」

 店長とのそんな話で、今日のバイトは終わりとなった。


「よ~しリーチ!」

 金曜日の部活、夕貴が勇ましくリーチを掛けて来た。

「その牌、チーです」

「あ~一発無くなっちゃった」

「元々ありません」

 七海が夕貴のリーチ牌である五をチーした。七海の下家に座っている彩葉は七海が鳴いた後に捨てた現物を合わせ打ち、彩葉の下家に座る沙夜は三枚目の北を切った。一周して、七海は手を倒した。

「ツモ、五○○・一○○○です」

「あ それ、あたしの和了り牌じゃん」

「平坂さん、喰い取れちゃいましたね」

 リーチというのは要するにテンパイ宣言であって、待ちを読む技量が高ければさほど脅威にはならない。しかしながら鳴きが発生した場合、その鳴きでテンパイしているのか、あるいは他に欲しい牌があるのか、というところまでは読み切れない。極端な話、リーチに対しては現物で回れば好いのだが、鳴きに対しては押し引きの上手さが必要になってくる。

 つまりリーチよりは鳴きが入った方がより警戒される度合いが高くなる。

「最近沙夜はあんまり鳴かないよね」

 壁牌を流しながら夕貴がそんな事を口にした。

「ん……鳴くと振り込みやすくなる……」

「へー、沙夜ってば麻雀は和了らないと意味が無いって言ってたから意外だね」

 確かにそんな事を言った記憶もある。和了るためには高いリスクも背負わなければならないが、ひたすら押すだけが麻雀では無い事も確かである。

 そんな会話をしている夕貴と沙夜を尻目に、彩葉はソファで居眠りをしている中野の方をちらりと見た。中野は人の対局を見る事があまりない。抜け番の時はこうやって寝ている事が多い。

(名古さんは昔から鳴き麻雀一筋でしたけど、ここ最近は鳴りをひそめている……代わりに守備力が上がっている感触がありますね。誰かに影響されたのだとしたら……)

「あ、部長それロン」

「あらっ……」

 よそ見をしている隙に、彩葉は夕貴に振り込んでしまったのであった。

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