四本場20
「……えー、二百点差で及川さんが平坂さんを逆転してますね。リー棒があったおかげです」
「えー!じゃ南三のリーチが余計だったワケ?」
その日の部活動もそろそろ終わりの時間に近付いていた。僅差で夕貴は逆転されたらしく、相変わらずの部活風景である。
「私……そろそろ帰らなきゃ………」
半荘二回終えたところで沙夜はバイトの時間を迎えたらしく、ロッカーの前に置いていた通学鞄を手に取った。
「ゴメン……先に帰るね……」
沙夜はそう言いながら、四人に別れを告げて部室を後にした。
「下校時刻まで後三十分ほどありますけど……三十分で半荘は無理でしょうね。まだお茶もお菓子も残っていますし、もう少し残っていましょうか?」
「賛成!」
「いえ、あの、せっかくなら東風戦を……」
「七海ちゃん、紅茶で好い?」
「いえ、あの……はい」
七海はまだ入部してそんなに経たないが、段々とこの雰囲気にも馴れて来た様子である。
「中野くん、お飲み物は?」
「ブラックで」
というわけで二次会スタートである。
「そういえば、皆が来た時俺以外に誰か先に来てたか?」
「んー?沙夜がいたよ。あたしと部長と七海ちゃんは一緒に来たからね」
「俺が寝てる時、誰かが左手を触っていたような気がする」
「沙夜じゃないの?」
「何でまた……」
夕貴はカップをテーブルに置いた。
「沙夜はホラ、スキンシップが好きだからさ。独り身だから寂しいんじゃない?」
「独り身?」
「あ」
夕貴はしまった、といった表情を浮かべ、てのひらを口に当てた。
「平坂さん……」
「ゴメン部長……」
夕貴は珍しくバツの悪そうな表情を浮かべた。
「名古さんは家庭の事情があって今は独り暮らしされてるんです。他人が恋しいんでしょう。特に中野くんは一番身近な異性ですから……」
「なるほど。知らぬ事とはいえあまり好ましくない事だったみたいだな」
「いえ……ですから、名古さんを嫌わないで下さいね」
「まあ、どさくさに紛れてナイフで刺したりしない限りは構わないさ」
中野はちょっと冷めたブラックコーヒーを口に運んだ。




