一本場7
どうにも非効率的な打ち方が目につく中野である。せっかく麻雀を打てる人間を見付けたのに……と、七海は少々落胆した。
しかし高め追求で手を曲げているのであれば、逆を言えば早和了りに徹することも可能ということである。まあインターハイの団体戦でもないのだし、中野は自身のふんどしで打っているのだからこちらがとやかく言う権利はない。
そんなこんなで場は進み、オーラスとなった。トップは中野の対面、三四八○○点持ちである。二着は起家、二八六○○点、三着は中野、二三五○○点、四着は中野の上家、一三一○○点。トップとの差は一一三○○点である。
中野はラス親であるため、五八○○を直撃するか、親満以上を和了れば逆転である。七八○○のツモ和了りではわずかに及ばない。
南四局、ドラは⑨。親は中野である。中野の配牌は以下の通り。
五七八③⑤⑦⑧5568西北 白
タンピン三色の好形ではあるがいささか時間が掛かりそうである。ツモに恵まれなければ先に和了られてしまうだろう。中野は北を切った。
中野はそこそこ好いツモを掴んでいるらしく、九巡目に一向聴となった。
六七八②③⑤⑦⑧55568
ここに⑥を持って来た。絶好のツモである。普通ならここで⑤を切る。赤が一枚あるし、7を引く前に①‐④を先に引いてしまっても三色を捨てて8を打てば三面張リーチが打てる。
中野は予想通り⑤を切り、一向聴とした。
そして次巡、待望の④をツモった。
(理想形でテンパイ。選択肢は三つ、8切りリーチで三面張のツモ狙い。あるいはダマでタンピンドラの直撃狙い。それか5を切ってカンチャンの三色狙い……)
この巡目で親がリーチを掛ければテンパイしていない限りはオリるであろう。それならやはりツモりやすい8切りの三面張リーチが妥当ではないだろうか。そう、ツモ和了りを狙うのであればリーチを掛けない限り三面張では逆転が出来ないのである。
「よし……リーチ」
しかし中野は、七海が予想したその全てを裏切り、赤5を切ってリーチした。
(赤5切り!?しかもリーチ!?一体どういうつもりで……)
七海は思わず身を乗り出した。
その時の下家の手牌はこう。
一二二二三③④677發發發
(親リーか……赤5をチーすれば②‐⑤待ちテンパイ。赤5をギリギリまで持ってたってことは235か578からの切り出しだろう。556から赤は切らないだろうし、捨て牌に7が一枚あるから577から赤を切ってのバッタ待ちもない……両面じゃないチャンタ系なら赤5はもっと早く手放すはずだからペンチャンもないだろう)
下家はしばらく考えて発声した。
「赤5チー」
七海の位置から下家の手牌が見える。普通の5なら裏スジになってまず切られないはずの7が、まるで何かに弾き出されるように河に躍り出た。
「……!」
七海が驚いたのと同時に、中野が手を倒した。
「……ロン」