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四本場19

 あくる日、沙夜が部室を訪れると、ソファに中野が横になっているだけで他には誰も来ていなかった。中野はその大きな体を窮屈そうに曲げ、仰向けになってソファの上でシエスタしていた。

 顔の上にはどこから持って来たのか薄い本(無料のフリーペーパー)が乗せられ、軽くいびきをかいている。

 思えばこんな無防備な異性を目の当たりにするのは初めての経験かも知れない。特に中野はいつも隙がないというか、何と無く取っ付きにくい印象である。

 話は面白いし、決して無愛想などというわけではないのだが、どこと無く近付きにくいというのが中野に対する沙夜の意識であった。

 沙夜は通学鞄をパーテーション代わりのロッカーの前に置くと、ソファに座れないため仕方なく自動卓の椅子に腰掛けた。

 中野は沙夜が来た事には気付いていないようで、相変わらずいびきを立てて寝ている。

 この状況で、もし自分がナイフを持っていたら簡単に中野を西を向かす事が出来る……などと、沙夜は物騒な事を考えていた。いや、自分が特に病んでいるなどと考えた事は無いが、こういう滅多に無い状況ではそんな妙な考えも浮かんでくる。

 沙夜は何とは無しに立ち上がり、中野が寝ているソファに近寄り、だらしなくソファからはみ出ている中野の左手にそっと触れた。

 対局している時にも思っていた事であるが、中野の手はとにかく大きい。牌を扱う手先を見ていると、牌が自分の時と比べて七割くらいの大きさに見える。

 彩葉の指先は細くしなやかで、雀士というよりは棋士のような繊細さであるが、中野の指先は熟達したの職人のような無骨な雰囲気が見て取れた。

 女子部員が多い麻雀部であるため、卓上を交錯し合う指先の中で中野の指はいかにも異質な存在であった。

「手……おっきい……」

 沙夜は中野の手を触りながら呟いた。中野に起きる気配は無い。

「……」

 しばらくさすさすしてしると、不意に中野が唸り声をあげ、それと同時に扉の開く音と夕貴の話す声が聴こえて来たため、沙夜は触っていた中野の手をパッと放し、何事も無かったかのように自動卓の椅子に戻った。

「お疲れ様ー!あ、沙夜もう来てたんだ」

「ん……待ってた」

 沙夜は卓の椅子に座り、彩葉、夕貴、七海の三人を迎えた。

「あれー後輩クン寝てるじゃん。ソファに座れないならお茶飲めないー」

「今日は色んなプチフールを用意してますよ♪」

 実家が輸入業の彩葉はさすがに海外製品に強い。

「あ~あ、ん、皆来てたのか。ソファ邪魔だったな」

 騒がしくなったため気付いたらしく、中野は上半身を起こして背伸びをした。背骨が大きな音を立てている。中野は立ち上がり、ソファを譲るために自身は自動卓の椅子に座った。

 いつものようにスイーツ(笑)と飲み物が振る舞われ、対局の前の談話が始まるのであった。

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