四本場13
東三局、ドラ發。親は沙夜。
麻雀は基本的に門前が有利である。リーチ権もあるし、防御に回っても選択肢が多くある。唯一の欠点は鳴きに比べて脚が遅い事である。
例え役満を張っても和了らなければ張り子であり、沙夜はその辺りを強く認識しているため、どうしても鳴きに走ってしまう。
彩葉や七海は脚の遅さを補うために牌効率などの技術を身に付けたのだろうが、単純に和了るためならば鳴いた方が効率は好い。
沙夜が麻雀部に入ったのは、単に陰険なイメージが自分に合っているのでは……と思ったからであった。七海のように全中チャンピオンであるとか、インターハイを目指す彩葉のように特別な思い入れがあったわけではない。
リーチしたりされたり、駆け引きなんかを楽しんだりという感覚は当初無く、ひたすら和了る事が必要だと考えていた。その結果、鳴き麻雀に行き着いたのである。
「リーチ」
六巡目、葉山がリーチを掛けて来た。捨て牌からすればタンピン系に見える。しかしドラがまだ見えておらず、それを承知でリーチに来たとなれば、二枚は抱えている可能性もある。
中野は現物、沙夜は手持ちのオタ風の対子を一枚切った。
「うーん分からないなぁ……ならこれ!」
木村は悩んでいたが、切ったのは何と初牌のドラであった。さすがにそれは……と沙夜も思ったが、ロンもポンも発声が起きなかった。
「強いな木村さんよ、そりゃドラだ」
葉山は苦笑いしながらツモり、ツモ切った。
「せっかく和了ったばっかりだし、強気で行かせてもらうよ」
中野はドラを一枚持っていたらしく、合わせ打ちした。沙夜ももう一枚のオタ風を落とし、木村のツモ番となった。
「おっ、リーチ!」
ドラを押して来た葉山は好手が入っていたらしく、追っ掛けリーチを掛けて来た。持ち点の少ない親の沙夜としては踏ん張りたいところではあるが、二人リーチではどうにも動けない。先ほどオタ風の対子を落としてしまったために安牌が無いのである。
一巡回るまでに安牌が増えなければ打ち込みの可能性が高い。葉山もツモれず、中野の番となった。
「ちょっと失礼……」
やはり中野も二人リーチは厳しいようである。しばらく考えた後、手出しで無筋の②を切って来た。
「おっロン!」
手を倒したのは、追っ掛けリーチを掛けた方の木村であった。
九九九①①②③③567東東
「リーチ一発一盃口……裏ドラが一枚。満貫だっけ?」
赤も無しの嵌張リーチである。初牌を切ってまで勝負に行く手では無いと思わなくも無いが、結果的には満貫まで伸びた。
「中野くんも強い牌だったな、勝負手だったか?」
「いえ、④の壁があったから切ってしまったんですよ」
言いながら中野は④を三枚倒して見せた。
「中野くんから和了れるとはツイてるなぁ」
中野が差し出した点棒と御祝儀締めて二百円を受け取りながら木村は上機嫌であった。
初牌のドラでも強引に切り出し、形の悪い待ちでもリーチを掛けて和了り切る。こんな流れは部活の対局ではまず見ない。
「さあさあ、オーラスで親だね」
上機嫌の木村は喜び勇んでサイを回した。




