四本場12
「よしリーチ!ようやく和了れるかな」
七巡目、木村は喜び勇んでリーチを掛けてきた。葉山は場に二枚出ている北を切り、中野は現物の東を切った。そして沙夜のツモ番である。
二四七八九⑦⑦⑧白白(657) 白
無事に白をツモったのは好いが、待ちがやはり悪い形である。木村は早めにドラを切っているため、ドラまたぎの⑧は比較的安全に見える。
沙夜はそう考え、とりあえずテンパイに取れる⑧切りとした。
「おっ一発!」
木村は沙夜の思惑を裏切り、勢い好く手を倒した。
七八九⑦⑨11123789
「リーチ、一発、純チャン三色……裏ドラが一枚。これ何点だっけ?」
「一六○○○と三○○点だよ」
木村は倍満を沙夜から和了り、更に一発と裏ドラの御祝儀を受け取った。
「さすが木村さん、綺麗な手を作りますね」
「いやぁ、沙夜ちゃんが鳴いたら⑨をツモったよ。これはチャンタ三色しかない!って思ったよ」
中野の称賛を嬉しそうに受ける木村である。そんな木村の手を沙夜は考察した。
チャンタや三色は好いとして、普通なら⑤引きを考慮して⑥は手牌に残しておくのが正着である。仮にリーチ牌がドラの⑥だったとしたら自分も⑧は切らなかったかも知れない。
沙夜が鳴いたら⑨が入って来たというのだから無理に鳴かずとも手は進んでいた事になるため、鳴くのはそれからでも遅くはなかった。
どうにも噛み合わない。鳴かなければミスするし、無理に鳴けば裏目になってしまう。これでは先日の部活と同じである。
今までは鳴き麻雀でも充分勝てていたのに、中野が参加しているとどうにも調子が乱れてしまう。彩葉や七海は門前でのテンパイを得意としており、鳴くのは満貫確定の染め手や躱し手の時がほとんどである。
故にスピードで勝てれば打点が高くなりにくい競技ルールでは大まくりの心配はほとんどないのである。
しかしこのルールではそうは行かない。一発赤ドラ裏ドラがあるし、初心者が入っていると却ってやりにくい。先ほどのドラ先切りなんかが好い例である。
鳴き麻雀一辺倒だった自分の意識を、ここらでちょっと改める必要があると、沙夜は漠然と考え始めた。




