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四本場9

 午後五時半頃、店長の木村がA4の紙を手にして店舗の方へと現れた。

「沙夜ちゃん、これ表に貼ってくるから、中はもう片付けちゃって」

 店長が持っている紙はどうやら『今日は早仕舞いします』といった内容の告知文らしく、お客様が混乱を招かないようにとの配慮である。

 沙夜はいつものようにショーケースの中を片付け、洗い物を始めた。他の従業員も各々に閉店作業を始めている。

 沙夜も自分の担当を俊敏に終わらせ、他の従業員も作業が終わり次第退店し、後は店長が終わるのを待つだけとなった。

「いやぁゴメンゴメン、さあ行こうか」

 店長は調理師服からベージュのジャケットに着替えており、あまり見ない店長の私服は沙夜の目には新鮮に映った。

 店長から事前に聞いていた話だと、店長の友人の雀荘で、雀荘のマスターとその奥さんが貸し切りで打ってくれるらしい。沙夜がJKである事への配慮であるという。

 歩いて約五分のところにある裏路地に、その雀荘はあった。

 二階建ての古めかしいビルで、一階が店舗、二階が住居となっているらしい。

 一階の壁面にはこれまた年季の入った電光看板が取り付けられており、それには『麻雀倶楽部 飛鳥』と、雀荘にしては雅やかな店名が書かれていた。

 その看板に灯が入っていないところを見るとやはり通常の営業という形ではないらしい。

 それでも店長は構わず店の引き戸を開け中へと入って行った。沙夜もそれに続く。

「おういらっしゃい、まあ遠慮なく入ってくれんか」

 中には小柄な初老の男性が一人立っており、卓を整えていたが、入って来た沙夜達に気付くと愛想の好い笑顔を向けて来た。中はあまり広くないが清潔感はあり、五台の自動卓が窮屈そうに鎮座してある。

「無理を言ってすまないね葉山さん」

「なあに旧い付き合いじゃないの、遠慮なんかいらんさ」

「沙夜ちゃん、ここのマスターの葉山さんだよ」

「初めまして……」

「いらっしゃいお嬢さん、まあゆっくりして行ってよ」

 顔は厳ついマスターの葉山であるが人柄は温厚らしい。沙夜は少なからず、安心した。

「で、急ですまないんだがウチのヤツが風邪引いちまってしばらく店に出られんでな」

「それはいかんね、お大事に。ならもう一人はどうしようか?」

「中野さんとこのがたまたま来ててな、頼んでみたら構わないって言うんだけど……」

「中野さんとこの?なら大丈夫だよ、信用出来る」

 沙夜は中年二人の会話を聞いていたが、何となく聞いたことのある名前が出てきたと気付いた。

 その時、トイレの流れる音が聞こえてきたかと思うと、店内の隅にあるドアから背の高い男が姿を現した。

「あ……」

 出てきたのは、麻雀部後輩の、中野であった。

「どうも木村さん、店はもう終わりですか」

「やあ中野くん、よろしく頼むよ」

「それと……もう一人がまさかセンパイとは思わなかったなぁ」

「ん?中野くん沙夜ちゃんを知ってるのかい」

「部活の先輩ですよ」

「そうかぁ麻雀部が二人か。これは厳しいなぁ」

 木村は嬉しそうに困っていた。沙夜は特に何も中野には口を利かなかった。

「なら始めるか」

 葉山の催促で、四人は卓に着いた。

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