表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/193

四本場8

 終わってのスコアは以下の通り。


七海 三ニニ○○点

夕貴 ニ四六○○点

中野 三ニ○○○点

沙夜 三一ニ○○点


「及川さんの逆転トップですね……」

 彩葉は言いながらスコアをノートパソコンに打ち込んだ。部内での対局の成績はこうやって記録されている。

「……」

 沙夜は先ほどから一言も喋らず、目線が前髪に隠れている事を好い事に中野の方をガン見していた。

「じゃ、二着の俺が抜けだな」

 中野はその視線に気付いているのかいないのか、首を左右に振りながら、彩葉と交代するために立ち上がった。

(名古さんもやはり気付いていたみたいですね。南場に入ってからほとんど鳴けなかった事に。他人が鳴く度に手が入って門前の手になってしまい、慣れない門前に翻弄されて負けてしまった。そしてその原因は……)

 彩葉は中野と替わって卓に着いた。

(自分のツモを他人に押し付けて手を縛るなんて、そんな麻雀の根っこを引っくり返すような事が出来るわけがない。でもこの事を言葉で説明するなら……門前にさせられた、という事ですか……)

「部長、飲み物もらって好いかな?」

 彩葉の独白を知ってか知らずか、中野は呑気に冷蔵庫を開け、中から飲み物の缶を取り出していた。

(中野くんの鳴きも、他人のツモを探っていたと考えれば辻褄は合う。でもこんな事、他人には話せませんね……)

 彩葉と中野が入れ替わり、次の対局が始まった。


 さて日曜日、沙夜は午前中からバイトのシフトに入っていた。休日という事もあり商店街の通りには中々人通りが多い。

 沙夜はショーケースの後ろ側に立ち、店舗のウインドー越しにそれらをぼんやりと眺めていた。

 今日は店長の木村の頼みで、店を早く切り上げて麻雀を打つ予定になっている。午後六時には店を閉め、そこから店長の知り合いの麻雀店に行き、半荘を数回打つ約束である。

 沙夜とて現役JKなのだからあまり遅くなるわけにはいかないので、時間の経過を見ながら回数を決める予定である。

 沙夜はぼんやりとした顔付きながらも、先日打った部活での対局を思い出していた。

 自分も麻雀部に入ってそれなりの時間が経つが、思いの外、門前での打ち方を知らないのだと認識した。

 部活の後に彩葉から指南を受けたが、オーラスでの一向聴時に単純な一向聴受けにせず一旦引いて手を柔軟に構えておくという事は確かに理論的である。

 結果論とはいえそれで振り込んでしまったのだし、何より部長の彩葉が言うのだから重みがある事は確かである。

「レアチーズケーキと、イチゴとラズベリーのムースタルトを二つずつ下さい」

「かしこまりました……」

 沙夜は客からの注文の品を慣れた手付きで折りに詰めていき、レジを通した上で手渡した。若い女性客は上機嫌な様子で店を出て行った。

 いつものバイト風景であるが、例えお釣りを渡し違えても気付かないと思えるほど、心ここに在らずの心境なのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ