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四本場4

 どうにも珍しい店長の申し出は謎であったが、沙夜は二人に挨拶し、店を後にした。手には折詰が握られている。余り物が出た時はそれをもらって帰っても好いという素晴らしい福利厚生がある。

 すっかり真っ暗になった夜道を、沙夜は少し早足に歩いた。駅から歩いて十五分ほどのところに、沙夜が住むアパートはある。

 築ウン年の中々年季の入った古めのアパートである。沙夜は二階の202号室のドアの前に立つと、ブレザーの懐から熊のキーホルダーの付いた鍵を取り出し、玄関の錠を開け、中へと入った。

 キッチン付きの六畳一間に、狭いバスルーム兼トイレ、上下二段の押し入れ……あまり快適とは言えない間取りである。

 沙夜は電灯の紐を引っ張り、灯りを点けた。部屋の中にあるのは、安物のパイプベッドと、中古で買ってきた古い勉強机くらいのものである。

 中には沙夜以外に誰もおらず、家具などから判断しても沙夜以外に誰かが暮らしている雰囲気は無かった。

 沙夜はキッチンの冷蔵庫に、店からもらって来た残り物のケーキを仕舞い込んだ。

 自分以外誰もいないこの部屋で、沙夜は小さく溜め息を吐きながら、ブレザーを脱いでハンガーに掛けた。


 翌日、店の余り物は麻雀部へとお裾分けすることがお約束になっているため、沙夜はカットケーキが数個収められた折詰を部室に持ち込んだ。

 部室の隅には100リッターの冷蔵庫を据えているため、夏場のなまものでもそれなりに持つ。しかし只でさえ前日の残り物を持ち込んでいるのだから、なるべく早く消化してしまう事が望ましい。

 放課後を迎え、相変わらず夕貴は高めのテンションで早速その折詰を開いた。

「やっぱり沙夜がバイトしてるところのケーキサイコーだよね~!毎日でも好いなぁ」

 もみの木の商品は部内でも評判が好い。彩葉が持ち込む高級な海外のお菓子も好いが、街角のケーキ屋さんが作るスタンダードなケーキも好いものである。

 ちなみに中野が持ち込むものは和菓子が圧倒的に多い。

 部活をするにも彩葉、夕貴、沙夜の三人しか集まっていないため、とりあえずソファに座ってお茶を傾けている次第であった。

「沙夜もパティシエの勉強してみたら?」

「ん……やってみたい、とは思う……」

「沙夜ならピッタリじゃん!そしたら私が味見してあげるからね」

「夕貴……食べたいだけ……」

「そうとも言うね~」

 夕貴は嬉々とした表情でケーキを口に運ぶ。そんな夕貴の様子を見て、沙夜は夕貴の腰に手を回して、ぎゅっと抱き着いた。

「アハハ、なぁに~」

「こうしてると……安心する……」

「アハハ、沙夜は甘えただなぁ」

 夕貴は嫌がる素振りも見せず、そんな沙夜の頭を撫でた。

「あらあら、仲が好いんですね」

 一人だけ別のアームチェアに座っている彩葉は、そんな二人の様子を微笑ましげに眺めている。どうやら日常茶飯事であるらしい。

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