三本場12
しかし本来ならば十八歳未満立ち入り禁止のはずの雀荘でなぜこんなにも顔が広いのか。やはり永いこと通い詰めている為であろうが、普段麻雀に対する意欲が極めて希薄に見えるにも関わらず、である。
そのことは中野が不在時の部内での話題にも挙がる程であるし、七海や彩葉の話を聞く限りでも当然だと思える事である。
夕貴は視線を持ち上げ、中野の表情をチラリと盗み見た。相変わらず無表情で壁牌を前に押し出している。
(うーん、分かんないなぁ。やる気無さそうな割には詳しいし……)
まあ考えても仕方の無い事だと、夕貴は配牌を取り始めた。
東一局、ドラ發。親は宮田。
何となくチップ麻雀の要領が飲み込めて来た夕貴である。赤牌を使うにはタンヤオを、ツモを狙うには多面待ちを、裏ドラを効率好く狙うには重なりの少ない平和を。対子系の役は打点こそ高いものの、御祝儀引きには不向きである。
(赤ドラを使ってツモ狙い、裏ドラの乗りにくい役よりは牌の種類の多い平和を狙う……メンタンピンが一番効率の好い手、ってことかな)
となると普段打ち慣れている競技ルールは不利に働く要素が多い。役牌を絞り合ったところで相手に赤ドラがあれば収支的には同じ事である。ツモられてチップを三倍取られるくらいならば打ち合った方がマシなのだ。
単に牌効率だけで手を決めるという事も、あくまで赤ドラがない前提で成り立つ打ち方である。
部活でのルールでは振らず和了らずの打ち筋が多い中野であるが、雀荘ルールでは果たしてどんな打ち筋なのか。少なからず、夕貴は興味があった。
「よし、リーチじゃい」
わずか五巡目にして親の宮田がリーチを掛けてきた。四巡目までは字牌、五巡目に2を切ってリーチしている。読みの材料はほとんどない。
(ツモが好かったのかな……うーん、分かんないや。仕方ない)
夕貴は仕方なく対子で持っていた北を切り出した。中野はというと、相も変わらず無表情のまま宮田の捨て牌に合わせ打ちをしていた。
「うむ、ツモじゃい」
七八九③③③④⑤11188 8
「裏は……むう、ナシじゃな。一三○○オール」
確かにこういう手は有効的である。まず三面張でツモを狙いやすいし、そこそこの順子とそこそこの刻子があり、三枚使いの③や1の暗刻は手の内にドラ表となる牌が無いため裏ドラへの期待値が高い。
こういった手を決めれば後々楽になるだろう。
競技ルールでは何ともないこんな手でも、一発裏ドラ有りのルールでは充分脅威になりうる。夕貴は先程の勝ちに浮かれないよう、緒を締め直す事にした。
東一局一本場、ドラ③。宮田の連荘である。
何とかチップを狙いたい夕貴の配牌は以下の形。
二四四五③⑥⑧⑧357南西
(あっ、配牌で赤が二枚もある……ドラは③だし、鳴いても満貫が狙えそう)
いささか入り目がキツいが、中々の好配牌である。夕貴は2をツモり、南を切った。
四巡目、夕貴は以下の形になった。
二四四五③④⑥⑧⑧2357 三
これで三色の目も出てきた。夕貴は⑥を切った。次の巡目、夕貴は六をツモった。ここは悩みどころである。
二三四四五③④⑧⑧2357 六
普通に考えて、三色狙いならば7切りである。夕貴も三色を狙い、7を切った。
しかしその直後、夕貴は6をツモってしまった。
(あちゃ裏目!でも7切っちゃってるし……仕方ないか、三色狙いを続けよう)
夕貴は6をツモ切りしたが、八巡目、1をツモってしまった。
(タンヤオも三色も赤ドラもなくなっちゃった……そうか、三色が不確定な時は無理にそれを追うよりもどの入り目でも赤ドラを使える両嵌の形に受けた方が好いんだ)
しかしドラは③であるため、リーチを掛ければとりあえず満貫である。夕貴は赤5を切ってリーチを掛けようとした。
「リー……」
「すまんセンパイ、ロンだ。リー棒はいらない。二六○○は二九○○の一枚」
不意に中野が手を倒した。
一一一⑤⑥⑦⑨⑨44566
「あっ……」
チャンスを逃したばっかりに打ち込んでしまった。しかし好く見れば中野は直前に3を切っている。
(無理に一盃口に受けるより、6切って両面待ちでリーチした方が好かったんじゃ……)
七海や彩葉ならそうしてリーチを掛けているだろう。なのに何故役有りとはいえカンチャンに受けているのだろう。夕貴は釈然としなかったが、振り込んでしまったものは仕方ないと、点棒とチップを差し出した。




