三本場8
好配牌をもらった夕貴は、五巡目に一向聴となった。
四五五②②④⑤⑦⑧345西 ⑥
筒子が思ったよりも伸びない為一通よりも三色を選んだがどうやら正解だったようである。赤ドラを使える贅沢な手格好だ。
(うーん、いつもなら西を切るんたけど……この間七海ちゃんから危ない牌は先に切った方が好いって言われたからなぁ……五切りかな?)
筒子は三面張だし、場に二枚出ている西を切ってまで無理に目一杯に受けなくともここは安牌を残しておく方が好いだろう。とは言うもののいつもなら目一杯に受けて西切りだろうが、それで放銃していることも多いし、ここは一つ腰を落としてみよう。夕貴は五を切った。
「……」
そんな夕貴の様子を、中野は黙って見ていた。
「リーチ」
同巡、高橋が五を切ってリーチしてきた。
(五切り?目一杯に受けてたらポン出来てた……)
和了れる方になってしまうが少なくとも一発は消すことが出来た。しかし今更後悔しても仕方ない。
「あら、一発ツモ……」
高橋はしなやかな指先で牌を倒した。
一一一④⑤⑦⑦⑦789南南 ⑥
「裏は……残念、ナシ。一三○○・二六○○の一枚オールね」
(③‐⑥待ち……もし五を鳴いていれば⑥が流れて来てた)
夕貴は親カブリの二六○○点とチップを一枚差し出しながら高橋の手牌を考察した。タラレバではあるが和了りを逃したことになる。
チップの比重が大きい場合、役アリの嵌張よりも役ナシでも三面張、ノミ手でも赤があれば積極的に喰い仕掛け、裏ドラを狙うならば重なりの少ない平和、総じてメンタンピンが最も理にかなっているといえる。
対子系の役は打点こそ高いものの、ご祝儀引きにはいささか不向きである。
「センパイ、惜しかったな」
一連の流れを見ていた中野がそんなことを言ってきた。麻雀だけではない、さっきもオーリーからのキックフリップが紙一重で失敗したのだ。
(うーん、何かカッコつけちゃった……ボー
ドと一緒で、後輩くんに好いトコ見せようって張り切っちゃって失敗してる……らしくないかも)
七海のような厳格な打ち筋も、彩葉のような柔軟性に富んだ打ち筋も、まだまだ初心者の自分には背伸びし過ぎである。打てるように打つのが一番なのだ。
(麻雀部の先輩らしく、って思ってたけど、らしいなんてらしくない、か……)
夕貴は深呼吸を一つ吐くと、ボタンを押して牌を流した。




