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三本場2

 春の陽気とはいえまだ肌寒く、身体を動かしている内は好いもののベンチに座り込むと冷えた汗が背中に凍みる。風邪を引く前にと、夕貴は腰に巻いていたパーカーを肩に掛けた。

 夕貴が練習しているのは、スケボーのトリックの一つであるオーリーからのキックフリップであった。簡単に言えば、自分が飛び上がると同時にボードも浮かせて、更にデッキをつま先で蹴って軸方向に回転させるというトリックである。

 オーリーはほぼ完璧にこなせるものの、キックフリップさせるとまだボードが安定せず、着地をミスしたりセクションにボードを引っ掛けてしまう事が多い。

 夕貴はセクション代わりに、公園に放置されていた壊れたベンチの座面を使用していた。今でこそ石造りの固定式のベンチが設置されているものの、以前は鉄枠とプラスチックで作られたベンチが設置されていた。それが何らかの理由で背もたれの部分が破損していまい、座面だけ残ったものが放置されているのである。

 高さといい幅といい、オーリーの練習には持ってこいであり、それを適当な場所に置いて使用しているものである。

 使い終わればもちろん元の位置に戻しておくことも忘れない。マナーは大事である。

 夕貴は腕に巻いたオレンジのベビーGの文字盤を見た。時針はほぼ真上を指しており、それを見ると急に空腹感が襲って来た。朝早くからボード詰めであるため腹ペコである。

「何か食べよっかなーっと……」

 そんな事を考えている夕貴であるが、ふと思い出して腰に下げたシザーケースからナイロン製の二つ折りの財布(マジックテープ式でない)を取り出した。

「む……」

 地獄の沙汰も金次第、この世の沙汰も金次第。コンビニでサンドイッチでも買って我慢するしかないだろう。

 夕貴は汽車を利用してここに来ているため、帰りの足代を残しておかねばならないのである。それを差し引くとやはり安価な昼食しか摂れそうにない。

 夕貴はため息を吐くと、座っているベンチに寝転がった。

「あぁ~好い天気だなぁ……」

 あまりの気持ち好さに睡魔が襲ってくる。このままここで寝てしまおうか。いや、うら若き乙女が公園のベンチで惰眠をむさぼるなどそんなはしたない───

 うとうとしかけた時、不意に太陽の光が遮られ、夕貴の顔に影が落ちた。それに気付いた夕貴が目を開けると、誰かが覗き込むような体勢で夕貴の顔を見下ろしていた。それが誰なのか、逆光になって分からない。夕貴が身体を起こすと、ようやく相手の正体が判明した。

「こんなところで寝てると風邪引くよ」

「おっと後輩くん、恥ずかしいところを見られたね~。いや、寝てたワケじゃないんだけどさ……」

 いつの間に現れたのか、夕貴の顔を覗き込んでいたのは麻雀部の後輩である中野であった。

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