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二本場10

 二回戦の成績は以下の通り。


一位 老人  二七○○○ +37

二位 彩葉  二六一○○ +6

三位 中野  二三九○○ ▲16

四位 紳士風 二三○○○ ▲27


 金額に換算すると彩葉は+六百円である。一回戦の収支が+五千六百円、そこから場代を千円払い、更に一回戦の東三局に紳士風のアリスで千円支払っているため実質は+三千六百円である。それを合計すると+四千二百円となる。

 しかし先程アリスで四千円喰らったため、正味+二百円である。

「えーと、部長が一回戦+56、二回戦が+6だから合計+62か。まったく歯が立たなかったな」

「中野くんは彼女を逃したのう」

「こんな麻雀強い彼女だったら尻に敷かれそうですよ」

 冗談のつもりか、中野は老人と笑った。

 しかし、今の彩葉は、それに突っ込める程気持ちに余裕がなかった。

「そしたら俺はここで帰ろうかな。部長はどうする、まだ打つ?」

「え……あ、私も一緒に出ます」

 二回戦勝負という約束だったので、彩葉は中野と一緒に店を出ることにした。


 外に出ると、中野は背伸びをして背中の骨を鳴らした。外はもう大分暗く、人通りも店に入る前より少なくなっていた。二人は店から離れ目抜通りまで戻るために歩き出した。

「さすがだな部長、やっぱり俺なんかが勝てるはずなかったよ」

「……」

 彩葉は+56、中野は▲29である。そう、確かにサシウマでは圧勝した。しかし収支に於いては彩葉が+二百円、中野が+百円なのである。

 収支でも一応勝っているとはいえ、これには彩葉も忸怩たる思いを噛み潰した。

「最後……」

「ん?」

「何で最後はドラを切ってまで手を下げてリーチしたんですか?」

「んー……」

 中野は彩葉の質問に、答えるかどうか悩んでいる様子だった。やはり何か言いにくいことがあるらしい。

「なぜなんですか?」

 彩葉が更に促すと、中野は仕方ないと言った様子で口を開いた。

「一回戦のオーラスに気付いたんだけど、店に行く前にコロッケ食べたよな?その時の油が八に付いてたんだよ。それが最後にアリスの位置にあるって気付いたんだよ。まあ、八より後のアリスはさすがに偶然だけど」

 彩葉は言われてようやく悟った。そう、二人で食べた肉屋のコロッケの油が指に残り、それがわずかながら牌に付着していたのだ。だからこそ、オーラスで中野はあんな不自然なリーチを掛けて来たのだ。

「でもサシウマには関係ないだろ?点数の勝負だってキメだったからな。部長の勝ちだよ」

「そうですね……確かにそうです」

 彩葉の思惑通り事が運んだにも関わらず彩葉は浮かない表情であった。相撲に勝って勝負に負けた気分である。

「では中野くん、約束通り麻雀部に入って下さい。明日からでも是非、部室にいらして下さい」

「負けたからな、仕方ないさ」

 中野は肩をすくめた。

「及川さんも喜ぶと思います。あなたは彼女からずいぶん思われてますよ?」

「それは……嬉しいことで」

 彩葉は冗談のつもりか、一人でクスっと笑った。

「私も納得出来るように勝ちますので、そのつもりでいて下さい」

 彩葉はそこまで話すと、再び肉屋の方へ向かい、先程と同じようにまたコロッケを買った。しかしなぜだが包み紙を二枚もらっている。

 彩葉は包み紙から半分はみ出しているコロッケをもう一枚の包み紙で包むと、綺麗に半分に分けた。

 そしてそれを、呆気に取られている中野に差し出した。

「打つ前に私はコロッケを買って百円使っていますから実質百円のプラスです。あなたも同じようにメンチカツを買っていますから実質はプラマイゼロ。でもこれを半分こすれば、お互いに同じ勝ちになるでしょう?」

 彩葉に促されるまま、中野はコロッケ(ハーフサイズ)を受け取った。

「今回の勝負はとても自慢出来るものではありません。引き分け、ということにしておいて下さい。もちろん約束を守ってくれたことには感謝します。ですからこれはお願いです」

 中野はコロッケ(ハーフサイズ)と、彩葉の顔を交互に見渡し、苦笑いのような薄笑いのような笑みを浮かべた。

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