二本場8
一回戦が終わり、ウマも含めた最終的な成績は以下の通り。
一位 彩葉 +56
二位 紳士風 +1
三位 中野 ▲23
四位 老人 ▲34
収支に換算すると彩葉は+五千六百円である。マイナスである中野と老人はそれぞれの負け分の金額を卓上に差し出した。彩葉はその中から場代の千円を店員に手渡した。
「お嬢ちゃん強いねぇ、最近の若い娘は油断ならんわい」
老人はサービスの煎茶を飲みながらそう言った。アリスさえなかったものの点数の上では圧倒した。東風戦はそれぞれ親が一回しか回らないため、自分の親番の捌きさえ誤らなければ負けはない。
そういった意味ではテンパイ効率を武器とする自分の打ち方はこの土俵に合っているといえよう。
「さあ、次に行きましょう」
ともかく今は中野とのサシウマを一歩リードすることが出来た。次の対局で仮に中野がトップを取っても自分が二着ならほぼ負けはない。彩葉は喜び勇んで、全員を促した。
二回戦、ラス和了りのサイ振りで起家を決める。彩葉が振って出た目は七、紳士風の出親である。彩葉は南家スタートである。
(東風戦の起家は親カブリしたら失点の巻き返しがキツくなってくる。北家スタートはトビ終了が起こりうる以上親が回って来ない可能性がある反面、回ってくれば点棒状況に応じた打ち方が出来る……その点南家や西家はその可能性も少ないから気楽に打てる。ここでツモって親カブリをさせれば……)
東一局、ドラ四。親は紳士風。
五巡目に紳士風が捨てた7を、彩葉はチーした。
三四四五五②②②⑥⑥(678)
タンヤオドラドラテンパイ、一手変わればツモり三暗刻にもなるが、そこまで欲張らなくても好い。
「ツモ、一○○○・二○○○です」
八巡目に彩葉はツモ和了った。
「またお嬢ちゃんの和了りか、敵わんのう」
「親カブリですな、これは後が大変ですぞ」
はっきり言って、彩葉から見れば門前長打狙いの打ち筋は非効率的であった。もちろん門前でも和了りが早そうであったり高い役が狙えそうであれば目指すが、失点の巻き返しがしにくい東風戦に於いては着実に和了りを取る打ち方をするべきである。
ドラが二枚あるとはいえ満貫狙いの門前では単に他家にチャンスを与えてしまうだけである。
とはいえ安過ぎる手を喰い散らかして和了ってもワンチャンスで逆転されることもあるし、あくまで打点とスピードのバランスを考慮した上での手作りを狙う。
場は回り、彩葉の親となった。
東二局、ドラ②。親は彩葉。
「リーチです」
流れに乗ったか、彩葉は六巡目にテンパイした。
七七七八③④⑤⑤⑥⑦333
ドラは無いが六‐九、八の三面張である。彩葉がリーチした後、中野はツモってしばらく考えた後、彩葉の現物である①を切った。
「むっ、ロンじゃ」
不意に老人が手を倒した。
二三四九九②③123678
「三色の手変わりを待ってたんじゃが親リーなら仕方ないのう。アリスは……ナシじゃな」
老人は既にテンパイしていたらしい。中野は少し考えていたようだが、これを察していたのだろうか?
いや、単に親リーの現物を切ったらたまたま安い手に当たったというだけだろう。
中野が二○○○点を老人に差し出し、彩葉のリー棒を拾って場は回った。




