二本場5
「いらっしゃい」
彩葉と中野がドアを開けて入ったのは、店というよりはアパートの一室を改築したような間取りの室内であった。玄関から入って右手に番台があり、ジャージ姿の中年男性の店員が座ってスポーツ新聞を読んでいた。
「おや中野くんかい。彼女連れてくるとは珍しいね」
「雀荘でデートする学生も俺らぐらいでしょうね」
「二人で入る?ちょうど二欠けあるよ」
店員がアゴをしゃくって示した先には、客待ちしていたらしい小肥りの老人と、ダブルのスーツを着た身なりの好い紳士風の男性が座っている卓があった。
「ええ、入ります」
「稼いで行くと好いよ」
常連の如き口調で店員としゃべる中野に続き、彩葉はその卓に着いた。
「お嬢さんは見たことがないね、中野くんの彼女かい?」
紳士風が話し掛けて来た。
「俺が勝ったら彼女になってくれるらしいです。皆さん援護して下さいよ?」
冗談めかして話す中野であるが、どうやら客とも面識があるらしい。自分は完全にアウェイだなと彩葉は感じた。
「お嬢さん、ルールは大丈夫かの?」
「えっと……東風戦でピンのワンツー、アリスが五百円……でしたね?」
「そうそう部長、言い忘れてたけど場代はトップ払いの千円。大丈夫だな?」
「大丈夫です。始めましょう」
席順は最初に座った席となり、起親は小肥りの老人、後は紳士風、中野、彩葉となった。
それはともかく、中野は自分に勝ったら彼女になることを要求してくるのだろうか、と、彩葉は心中穏やかではないのであった。
ピンのワンツーということは、▲30でラスだった場合、ウマを足して▲50、つまり五千円である。更にアリスがある。このアリスというヤツがどうしても読めなかった。
素点以外で勝敗を決めたことのなかった彩葉は、故に中野とのサシ勝負をスコアで決めると言ったのである。
そう、素点を叩き出すのには慣れている。手作りの上で負ける気はしない。常に先手を取って和了り続ければこちらが負けることはない。
あくまでいつも通りと、彩葉は自分に言い聞かせ、東一局の配牌を取り始めた。




