二本場1
放課後といえば、思い思いの青春を謳歌する時間の代表的な存在であるが、そんなモラトリアムな時間に、彩葉は退屈そうな表情を浮かべてチョークの走る黒板を見詰めていた。
生徒会役員である彩葉は、月に一度の定例会に参加していた。定例会といってもそんな大それた内容を話し合うわけではない。
服装などの違反者の数やそれを矯正するための方法、大会がある部活動の壮行会や全校集会の骨子の起草、あるいは挨拶運動のシフトなどである。
体育祭や文化祭などの大きなイベントが催される時期はこの定例会も臨時召集が掛けられる程多忙を極めるが、入学式も終わり、インターハイへ向けての地区予選が始まる六月まではこれといった議題もなく、ただ形ばかりの会議が一時間程行われるだけであった。
もちろん彩葉が才色兼備の優等生であることは周知の事実である。本人も学業や武芸を疎かにするつもりはない。退屈といっても、役員としての責務は当然果たすし、この定例会だって役員としてのモチベーションを維持するためにも必要であると認識している。
ただ、やはり実りのない内容をいくら話し合っても、それが退屈であると感じてしまうのは彩葉に限らず無理からぬ話である。
彩葉の実家は代々輸入代理店を営んでおり、それなりに裕福な家庭である。父親のクルマだって高級外車だし、自宅も庭付きガレージ付の豪邸、時期になれば別荘へ行楽に出掛ける。
いわゆるお嬢様であり、欲しいものは何でも手に入る、庶民からしてみれば羨望の対象である彩葉であるが、その実、誰よりも刺激を欲していた。
その彩葉が現在最も傾倒しているのが、何を隠そう麻雀であった。
「ではこれにて定例会を終わります」
生徒会長が解散を告げ定例会はお開きとなった。彩葉も筆記用具をまとめ生徒会室を後にした。
「あら、もうこんな時間……早く帰らないと」
手首の内側に文字盤を向けて巻いたハリーウィンストン製の腕時計を見ると、割と遅い時間を指していることに気付いた。
彩葉が定例会の日は基本的に休部とすることが多い。故に麻雀部の面々も帰宅していることであろう。もしかしたら部室に集まっているかも知れないが、この時間からでは麻雀もおしゃべりも出来まい。
彩葉は部室には寄らず、そのまま帰宅することにした。




