一本場22
南三局、ドラ三。親は七海。
二六○○を振り込んでしまっての七海の配牌はこう。
一二四八④⑥⑨3589西北中 九
(これはいけない、配牌が……さっきの二六○○振り込みで体勢が悪くなってる。この局は和了るより振り込まないことを考えなくちゃ)
七海の配牌は完全に死んでしまっている。これを和了りに行けば振り込んでしまう。ここは防御重視で徹底的に守り切るしかない。
となると風牌や役牌は鳴かせられない。特に二着目の沙夜の風牌である西は押さえ込まなければならない。
七海は⑨を切った。
中野はというと、一打目に⑥を切り、明らかに変則的な手をしているのだろうということが分かった。七対子かチャンタだろうか。
その後も七海は将来危険牌候補になりそうな牌を先に切り、安牌になりやすい字牌やワンチャンスの牌を集めて行った。
一方中野は相変わらず無茶な手作りをしているらしく、真ん中を多く切り、あるいは国士狙いかも知れない。
七海は字牌を溜め込み、中野は国士狙い、その雰囲気は他の二人も察しているらしく、まだオーラスを残しているため様子見に回っているようであった。
七海の防御戦法と中野の国士狙いが巧く噛み合ったのか、誰もテンパイせずに南三局は流局してしまった。
そしてついに迎えたオーラス、それぞれは手持ちの点棒を数え、それを申告し合った。
「二九三○○」は中野。
「二八五○○」は夕貴。
「三○○○○」は沙夜。
「三二二○○」は七海。
暫定トップは七海である。このまま逃げ切ればトップである。それでも極々僅差であり、ラスの夕貴ですら三九○○を和了ればトップになる。これはスピード勝負になるだろう。
彩葉は四人の点数状況を、局が終わる毎に紙に記していた。本当ならば牌譜も残しておきたいところだったが、牌譜の記録者がいないためにとりあえず点数だけでも残しておこうと思った次第である。
その紙を見ながら、彩葉はあることに気付いていた。
(これは……やはりそう、本人は分かっているはず。他の三人は気付いているのでしょうか?)
彩葉の心中を知ってか知らずか、四人はオーラスの配牌を始めていた。
(これは……いえ、そんなまさか……でも)
しかし確かにその傾向はあった。あまりにそれが目立たなかったためにオーラスになるまで気付かなかったのだ。彩葉はもはや卓の方は見ず、点数を記した紙をじっと眺めていた。




