一本場21
南二局、ドラ⑥。親は沙夜。
中野が二巡目に捨てた北を、沙夜がポンした。オタ風である。対々和か、染め手であろうか。更に四巡目、中野が捨てた9をポンした。
(対々か混一色?これ以上親に鳴かせるわけには行かない……)
役牌は絞らねばならない。となると手に制限が加えられてしまう。七海も手持ちの東や白を切り飛ばしたいところではあるが、振り込んだりしたら目も当てられない。
(仕方ありません、ここは攻守兼用の七対子に切り換えて……)
七海の手はタンピン系であったが、仕方なく字牌と索子を押さえての七対子に切り換えることにした。
そして八巡目、中野は更に西を沙夜に鳴かせた。沙夜は西を鳴いた後、2を切り出した。
(三枚も鳴かせて……三副露で索子が出たらさすがにテンパイでしょう。2切りということは、1と字牌のシャボ待ち……?)
その時の七海の手牌がこう。
四五②②113345東東白 四
(七対子一向聴……索子と字牌を切れない以上五を切るしかないですね。テンパイするまでに白か索子が安牌になっていれば……)
本命である1と初牌の東は押さえている。テンパイするまでに沙夜の捨て牌に索子の現物が増えてくれれば充分闘える。沙夜は五を切った。
「あ、ロン」
「えっ?」
手を倒したのは、何と三副露の沙夜ではなく夕貴であった。
四六③④⑤⑥⑦⑧34555
「タンヤオドラ一……二六○○」
「あっ……」
「いやぁ、沙夜がたくさん鳴いてるし、リーチはせめて両面待ちになってからって思ってたけど、出たんなら和了っとかなきゃね」
親の染め手にばかり気が行ってしまい、仮テンに気付かなかったとは。ここで二六○○の支出は痛い。
(中野くんも中々力技を使いますね。自分の手が悪いから、親に鳴かせて他家の手を縛る……恐らくは流局狙いだったんでしょうが、トップから点棒を吐き出させることが出来た。これは及川さんのようなタイプでは無理な打ち方でしょう)
彩葉はこの展開を見ていて再認識した。やはり中野からは鉄火場を生き抜いてきた猛者の臭いがする。いくら負けても傷付かない競技麻雀の世界ではない、己の身を削らねばならない勝負の世界を。
(及川さんとは別タイプの中野くん……お互いに刺激し合える、好敵手同士になると思います。中野くんには是非入部してもらいたいものですね)
中野が入部すれば、インターハイに向けて好いスパイスになるだろうと、彩葉は期待を寄せていた。




