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一本場2

背が紅色の牌を拭き終えた頃、先ほど流した牌のセットが完了したらしく、紅色の牌をケースに仕舞い込んだ後、残りの牌も同じように拭き掃除をする。これを怠れば手脂ですぐに牌が粘ってしまう。

 残りのワンセットも、手早く吹き上げてしまうと、四人の女子生徒たちは部室を後にした。


 傾いた夕日が足元に伸びる影を長くする。四人は並んで校門を出ると、駅へと向けて歩を進めた。

「七海ちゃん入ってくれたのは好いけどさ、後一人いないとインターハイ行けないよ部長ー」

 通学カバンを持ったまま後頭部で手を組み、夕貴はそんなことを口にした。

「もちろん分かっています……後一人、何としても探し出さないと」

 秋にインターハイを控え、団体戦に参加するにあたって五人必要であるというレギュレーションを現時点で満たしていない矢上南高校の麻雀部は、いわゆる部員不足状態であった。

 現在ではそれなりに市民権を得てきた麻雀競技ではあるが、設備投資に差の出やすい公立と私立では競技人口にも差がある。

 規模の大きい私立高校は専用の部室があり、卓の数も二桁、合宿棟の使用も積極的で、本格的に麻雀をやりたい人間はそちらに集まることになる。

 運の要素が大きい麻雀とはいえ、それだけ姿勢が違えば地力に差が出てしまうのは無理からぬことである。

 部員不足で泣いているような弱小麻雀部はインターハイへの参加すら危ういのである。

「あ、新作出てる!」

 駅前の商店街に差し掛かった折、夕貴は何かに反応して声を上げた。夕貴の視線のその先にあったのは、商店街の裏路地に繋がる細い通りの入り口にある、クレープ屋の軒先であった。

 軒先に提げられたスケッチブックほどの大きさの看板に、『新作!白玉ぜんざいクレープ』と書かれているものである。

「部長、ちょっと寄って行こうよ」

「そうですね……まだ時間もありますし」

「沙夜も行くよね?」

「ん……」

 七海を除く全員が同意したため、為し崩しに七海も着いていくという雰囲気である。女子高生四人組はそのクレープ屋へと向かった。

「おっちゃん、新しいのちょうだい!」

 夕貴は顔馴染みの店主に同級生度100%で話し掛けた。角刈りの頭にねじりを巻いてクレープを焼く店主は、どちらかというとテキ屋のたこ焼屋である。

「おうみんな揃ってんね、みんな同じヤツ?」

 器用に生地を鉄板に拡げながら、店主はにこりと微笑んだ。

「はい、夕貴さんと同じものをいただきます」

「ボクは……いつものヤツが好い……」

 彩葉は夕貴と同じ新作のクレープを、沙夜は『いつもの』と注文する。

「七海ちゃんは?」

 まだ決めていない七海に、夕貴が振ってくる。

「私は……」

 七海は一瞬だけ悩む素振りを見せた。

「私は……結構です。夕飯に影響します」

「えー、七海ちゃんてばお堅いなぁ」

 結局七海だけ注文せずに、他の三人はクレープの焼き上がりを待つことになった。

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