七本場25
「まあ先輩にやる気があるのなら部員の皆にも訊いて見てからで好いんじゃ無いか?空撃ちになるのは勿体無いからな」
「そだねー。でもホントに私でもバンドなんて出来るのかな」
相変わらず不安はそこにある。授業の課題ですら頭を抱えてしまう自分が、演奏はともかく全体の連携がものを言うバンドシーン等参加しても好いものなのだろうか。
バスケットはミスを起こしてしまっても全体のフォローで立て直す事が出来る。しかし演奏とは、一つの正解をミス無く行う事であると言っても過言では無い。しかも学校の授業とは訳が違う。目や耳の肥えたお歴々が演奏を観に来るのである。
「バスケもスケボーも人目がある競技だろ?先輩なら大丈夫だよ」
「いやー励ましてくれてるのは分かるんだけどさ……うーん」
夕貴は頭の中を飛び交う音符達に一抹の不安を覚え、しかめっ面で腕組みをした。
「ま、後は明日だな。あんまり遅くならない内に帰った方が好い」
中野はテーブルの隅に置かれていた伝票を手に取り席を立った。気付けば結構時間が経っているようだった。
勘定をしている中野よりも先に店の外に出た夕貴は、光と音の交錯するライブハウスの光景を思い出し、そこに自分が立つ様子を想像して、不安なような恍惚のような、複雑な感情を覚えるのであった。




