七本場24
出来立ての中華は食欲をそそる事この上無い。青椒肉絲は豚肉造り、麻婆豆腐は花椒がまぶされ、共に本場ながらである。加えてライスの大盛り、これはまるで成長期男子の部活帰りの様相である。
「んーおいしー!」
気持ち好いくらいの食べっぷりを見せてくれる夕貴を傍目に、中野も焼飯を散蓮華で食べ始めた。チャーシューとネギ、ニンジンと卵のシンプルな具材だが、焦がし醤油とニンニクの薫りも相まって実に食欲をそそる。
「ありゃもうご飯も無いや。後輩くん、追加しても好い?」
「……どうぞ」
注文していた二品をペロリと平らげてしまった夕貴は再びメニューの短冊に目を通した。
「おねーさん、レバニラと餃子定食大盛りで!」
「気持ち好いくらい食べてくれるわねー。レバニラと餃子ー!」
この期に及んでまだライス大盛りを食べられるとはさすがに体育会系の夕貴である。
「そんなに食べて大丈夫か?」
さすがに中野も心配してくるが、夕貴はあっけらかんとして手を振った。
「大丈夫だよ、若い時はしっかり食べないと!」
この様子からして普段から夕貴はこの位を食べているのだと思われる。それでいて背は高いものの引き締まったボディをしているのだから驚きである。
たまに部員達で買い食いをする事があるが、彩葉や七海はやや体重を気にしている節がある。しかし夕貴は体重なんぞどこ吹く風、ちゃんと運動して食べた分を燃焼させているのであろう。
中野は夕貴が追加を注文した辺りで焼飯を食べ終え、店員が器を下げてくれた。追加が来るまでやや時間がある為、夕貴は先程の話の続きを始めた。
「でも楽器って結構高いイメージあるけど、すぐには買えないと思うなぁ……ついこの間お父さんに頼んでボードのペイント代出してもらったばっかりだし」
「そうだな……買うとなればそれなりに値段はするな」
「だよねー、お年玉まで待たなきゃならないかな……」
せっかく興味を持ったのに巌より堅く大きな現実が立ちはだかる。夕貴は頭の上をもやもやさせながら今度は片手で頬杖を突いて溜め息も吐いた。
「レンタルならまあそれなりに安くで借りられる所はある」
「え?」
そんな夕貴に助け船を出してくれたのはまたしても中野であった。