七本場23
「後輩クンがいてくれたら部活も遊びもご飯も安心だねっ」
夕貴はその体勢のままにっこりと微笑んだ。
「……そりゃ光栄な事で」
中野は照れているのか、目を伏せて溜め息がちにそう言った。普段から仏頂面の中野である為その表情から感情を読むのは中々に難しい。
「でもさー、私、楽器の事なんて何にも分からないよ?ギターとベースって何が違うの?って感じ」
「まあやる気があるなら何でも好いと思うよ。ただ、ドラムだけは自宅で練習出来ないから止めといた方が好いかもな。音がうるさいし、電子ドラムは高いし」
「何となくイメージ出来るのはギターなんだけど……私、後輩くんが弾いてたベースをやってみたいな」
「なるほどベースね……」
今しがたベースの存在に疑問を呈した夕貴であったが、それほど中野が弾いていた様子を見て印象に残ったらしい。
「ベースはギターに比べて大きいから、背が高くて腕の長い先輩にはちょうど好いと思うよ」
「え……そうかな?」
夕貴は表情を緩めた。
「そう言えば及川が歌うの上手かったな。音楽の授業の時に先生に言われて全員の前で歌った事があった」
「へー七海ちゃんそうなんだ。あ、前に部長がピアノ弾いてたの見た事あるなぁ」
「となれば、麻雀部でひとバンド出来るんじゃ無いか?」
「沙夜が楽器出来るってのは聞いた事無いけど……」
「名古先輩なら何かしら弾けるかも知れないな」
本人達のいない所で盛り上がるハイトール二人組の元へ、立ち番の女性店員が盆を持って現れた。盆の上には注文した料理が湯気を立てて載っている。
「はーいお待ちどお、ゆっくりしてってね」
「わぁー美味しそう!ありがとう後輩くん!いただきまーす!!」
夕貴は目を輝かせ、箸立てに立ててある割り箸を手に取り、両手を合わせてから料理に取り付いた。