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七本場21

 気付けば中々好い時間で、さすがに商店街も人がまばらになり始めている頃であった。買い物客よりは仕事を終えて帰宅するリーマン層が多い。

 そんな中を夕貴と中野は進み、着いたのは商店街横丁のやや奥まった場所にある中華屋であった。入口は年季の入ったアルミサッシのガラスの引き戸で、入口の左手にはガラスのショーケースが置かれ、その中には古びた食品サンプルが並んでいる。入口には暖簾が提げられ、赤地に白抜きで『本格中華来仁軒(らいじんけん)』と書かれている。

「ちょっと古いけどな、味は確かだよ」

 中野は物怖じせずにそのアルミサッシを開き、暖簾をくぐって店内へと足を踏み入れた。それと同時に中から来客を迎える声が聞こえて来る。

「いらっしゃーい」

 随分年季の入った外装の割には、二人を出迎えたのは妙齢の女性で、アンバーのエプロンと清潔そうな三角巾を頭に巻いていた。

「あら中野くんいらっしゃい。どこでも好いわよ」

「こんばんは、お邪魔します」

 中野に続き店内に入った夕貴であるが、これぞ町中華に相応しいレトロな雰囲気が迎えてくれた。

 まず床がコンクリートの打ちっぱなしで、入って右手にはL字型のカウンター、その中に雑然とした厨房、左手には四人掛けの箱席が二つ、一番手前の人の往来がある辺りは二人掛けの小さな席があった。そして壁の角の上部に板が渡され、その上にこれまたレトロなラジオが載せられ、そこから野球中継が流れていた。そして壁一面に貼られた短冊状のお品書き。それぞれが店の空気に晒されて色がくすんでしまっている。しかし、それがまた味を出していた。

「二名様ー」

 その女性が奥に向かって声を掛けると、厨房の奥から調理服を来た中々高齢の男性が姿を現した。白髪で、いかにも頼り無いヨボヨボとした風貌だが、ベテランの料理人らしい頑固そうな雰囲気が見て取れる。

 夕貴と中野は空いているのを好い事に四人掛けの席に腰を下ろし、ズラリと壁に居並ぶメニューを眺めた。

「お好きなものを。どれも美味いからな」

 立ち番の女性がお冷やを出してくれているのを尻目に、夕貴はメニューとにらめっこする。

「じゃまずは麻婆豆腐と青椒肉絲!後ライス大盛りで!」

「……まずは?」

「だってライブ観てたらお腹空いちゃってさ!」

「……じゃあ俺は焼飯で」

 中野の表情はやや険しくなったが、結局そのまま注文を通した。

「決まった?麻婆一丁青椒一丁焼飯一丁!」

 立ち番の女性が厨房に注文を告げ、それを料理人のじいさんは聞いているのかいないのか返事もせず厨房の中へと再び引っ込んで行った。

「中々雰囲気のある店だね」

「まあな。シェフはこの道五十年のベテランだから味はお墨付きだよ」

 中野は、財布の中身を改めながら、そう言った。

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