七本場20
四組目は洋楽のロックバンドで、革ジャンにレザーのパンツ、重たそうなチェーンを肩から腰から提げた硬派そうなグループだった。
五組目はシンセサイザーを多用したプログレッシブバンドであった。普通の歌物とは違い、インストルメンタルバンドで、客との盛り上がりよりは曲としての完成度を目指している印象を受ける。
演奏技術を持つ人間程こう言う曲の善し悪しが分かるのだろうが、残念ながら夕貴は理解に及ばない。それでもフロアの熱気はまだ保たれているし、その余韻を充分に残したままイベントは終了した。
「おーいチューヤンお疲れー」
イベントが終わった所で、中野が参加していたバンドのボーカルを務めていたルーミンと名乗っていた女性が現れ、中野に声を掛けて来た。スタジャンを半脱ぎ状態で上半身に掛け、長い髪を大きなリボンでポニーテールに結っていた。
「ああルミさん。お疲れ様」
「お?彼女来てたの?」
「先輩とデートですよ」
「ハハハ!チューヤンも隅に置けないねぇ。まあ何にしても今回もありがとね、また手伝ってよ」
「ええ、いつでも駆け付けますよ」
「もう帰る?」
「すんませんね、先輩送っていかなきゃならないので」
「そ、じゃあまたね。気を付けて」
陽気な人らしく、フロアを後にしようとしている夕貴と中野に手を振りながら見送ってくれた。それを背中に受けながら、夕貴と中野は未だ興奮冷めやらぬ様子のフロアを後にした。
先に出た観客が、名残惜しいのか只でさえ狭い階段に立って談笑していた。その脇をすり抜けるようにして二人は階段を上がり、すっかり暗くなり始めた夜の帳の下に立った。
「いやー楽しかったー!ライブハウス初めて来たけどスゴイ盛り上がりだったね!私も盛り上がっちゃった!」
「やっぱり生の演奏ってのは迫力が違うだろ?」
「うんうん、胸を刺すって言うか、脳に入り込むって言うか。まだ頭の中で音が鳴ってるよ」
「楽しんでくれたようで何より。さて……どこに行こうか」
「待ってましたァ!」
色気より食い気、苦笑いする中野の背中を押して、夕貴は商店街の方へと向かった。