七本場19
中野達のバンドから次のバンドへの転換が終わり、一曲目の演奏が終わった辺りで中野が再びフロアに姿を現した。先程別れた時とは違い、演奏を終えた後の中野は何故か後光が差して見える。
「お疲れ後輩クン!かっこ好かった~」
「いやいや、ありがとう先輩」
夕貴の労いもそこそこに、中野は再びローナに向かって飲み物を注文していた。演奏で喉が乾いたのだろう。
ローナから烏龍茶の入ったグラスをもらった中野はそれをあっという間に空け、手にしていたタオルで顔全体を拭った。ステージは常時スポットを浴びているのだ。汗をかくのも無理は無い。
「すっごく盛り上がってたじゃん!私もテンション上がったよ!」
「これがライブの醍醐味だよ。直接熱を感じられるからな」
そう言う中野の表情は実に充足している。普段はクールな中野も、やはりパッションを刺激されるのだろう。
「後二組だから一時間くらいだな。先輩、最後まで観ていくか?」
「うん、せっかくだし。お母さんに遅くなるって連絡しとく」
「そうか、ならせっかく来てくれたんだし、晩飯は俺が振る舞おう」
「え!?チケットまでもらったのにそんな……」
などと一応のポーズを見せる夕貴であるが、僥幸によりその顔がニヤけているのは明らかである。花より団子を地で行く夕貴に饗応を断ると言う遠慮の意思は無い。
「先輩の顔にはご相伴に与ります!って書いてあるけどな」
「あはは!女の子にそんな事言っちゃダメだぞー!」
照れ隠しなのかテンションの余韻なのかは分からないが、夕貴は嬉しそうに中野の肩をバンバンと叩いた。
「あ、そう言えば……」
「ん?」
先程のライブの中で、気になった事を夕貴は訊いてみる事にした。
「チューヤンって何?」
「……音読みだよ」