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七本場15

 人生で初めてライブハウスに足を踏み入れた夕貴を出迎えたのは、まず胸を突くような煙草の臭いであった。続いて会話すら困難になるような爆音で、更には歩行すらままならない程の観客達であった。

 夕貴、中野共に身長は平均より高めなので、店内を見渡すには特に無理は無いが、こうも人が多くては身動きが取りにくい。

 ライブハウスの中は、ドアから右手方向に向かってフロアが広がっており、最奥がステージになっていた。今以て数名のプレイヤーが壇上に登って演奏している。ドアの左手側がバーカウンターになっているようで、広めのカウンターが据え付けられており、什器が並べられ、その奥は酒瓶がいくつも並べられた水屋となっている。

 ステージに向かって左側がPAのスペースとなっているようで、数人の人間が移動式の演台の上で機器を操作していた。

 フロアの広さは教室程であろうか。三分の一がステージで、後はフロアとバーカウンターとなっている。

 観客はと言うと一様にアナーキーなファッションをしており、先程入口で見た革ジャンはまだ好い方で、厚底のブーツにチェック柄の編みタイツ、フリルのたくさん付いたミニスカート、そして黒のワイシャツに鎖やら安全ピンやらのアクセサリーを付けた女性客、ド派手な金髪の逆立てスタイルの男性客、タイトなデニムのミニスカートに肩口が大きく開いたカットソーを着た女性客など、お買い物タイムの商店街ではまず見られないファッションの観客達ばかりであった。

 そんな中で夕貴と中野は制服のままだが、逆に目立ってしまっているように感じた。

「先輩、飲み物はそこのカウンターで注文出来る。メニューがあるから好きなの頼みなよ」

 演奏の音が響く中で、中野は大きな声で夕貴にそう言った。夕貴は先程もらったギターピックのドリンクチケットを手に握り締め、中野に促されるままバーカウンターに近付いた。

 バーカウンターの中では、日焼けしたような浅黒い肌に黒のへそ出しチューブトップと、ネックレスやブレスレットをジャラジャラと身に付けた派手な女性がシェイカーを振っていた。

「ハァーイお嬢さん、中野クンのオトモダチ?」

 気さくに話し掛けてくるその口調はどうやら片言のようで、好く見ればご立派なお山を持つその体格からして日本人では無いように見受けられた。

「あっはい……えーと」

 誰とでも分け隔て無く話せる夕貴であるが、こう言う場のノリはまだ馴れていない。カウンターの端に置かれているメニューボードを眺めて見るが、半分以上がどうやらアルコール類であるようだ。さすがに制服姿でこれらは頼む訳には行くまい。

 数あるメニューの中で夕貴が選んだのは、何と、コーラであった。

「あの、コーラお願いします」

「ハーイコーラね」

 夕貴は手にしていたピック型ドリンクチケットを差し出し、それを受け取った店員の女性はそれをカウンターの隅に置いてあるジェリ缶のようなデザインの缶の蓋を開け、その中に放り込んだ。

 氷の入ったグラスに手早くコーラを注ぎ、ストローを差してカウンターの上に置いた。

「飲み終わったらネ、このカウンターの上に置いといてくれれば好いからネ」

「はい、ありがとうございます」

 夕貴はグラスを受け取り、中野の方へと向き直った。

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