七本場11
麻雀部の体力班である夕貴は身体を動かす事に関して物怖じしない。受け取ったボードを手に、商店街内にあるいつもの広場へと足を踏み入れた。
いつものようにボードの練習を始める……のは好いのだが、いつものパンツルックでは無く今日は制服のままである。つまりはスカートであって、それが何を意味するかは多言を要さない。
しかし夕貴は構う事無くボードを地面に敷き、その上に乗ってチクタクから始めた。
ペイント面はボーディング中に見えないが、それでも足元に変化が起こった事による意識の違いは楽しめる。例え見えずともいつもと違うボードの雰囲気はその悦を増幅させる。
そろそろオーリーの練習でも始めようかと思っていた矢先、夕貴は周囲にいる、何故かいつもより多い見物客の中に見知った顔を見付けた。
「おーい、後輩クンじゃないかー」
夕貴がその人物に声を掛けると、その人物は夕貴の方へと近付いて来た。
「先輩、相変わらず周りを気にしないな」
麻雀部の後輩、中野であった。
「気にしない?そう?確かにいつもより人が多いけど……」
「制服でやってたらそりゃあな……」
「……そう言う事!大丈夫だよ、ちゃんとスパッツ履いてるし」
夕貴の活動的な印象を体現しているかのようなミニのプリーツスカートであるが、夕貴はその裾を両手で摘まみ、コンプレッションとして着用している紺色のスパッツを中野に示して見せた。
「……見せなくて好いから」
屈託の無い夕貴の戯れに中野は反応に困っているのか、頭の上をモヤモヤさせながら目を伏せた。
「いやぁ、ペイントを新しくしたから嬉しくてさ」
「気持ちは分かるけどな」
夕貴は練習を一旦止め、ベンチに中野と共に腰掛けた。商店街は買い物客が増えて来る時間帯で、にわかにざわつき始めていた。
「そう言えば後輩クンは?今日部活休みだったよね?」
「今からお手伝いだよ」
「お手伝い?」
お母さんから頼まれた晩御飯の材料でも買いに来たのだろうか。今日はオムライスだから卵を──




