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七本場10

 月末にインターハイの地区予選を控えている為部内もどこかピリピリしている空気がある。夕貴とて元はバスケ部のエースであった為その辺りの緊張感は経験しているが、元々体育会系の自分にとって緊張の質が違う。

 バスケットボールの試合なら己が持つ技術や仲間とのチームワークを発揮する為には身体的、精神的な根拠が必要になって来る。しかし麻雀に限っては、結局その手牌から何を切るかという部分に集約されるのである。

 点数状況やそれまでのチームの貯金等を鑑みてその手から打つ牌を選ばなくてはならないが、つまる所麻雀とは『何を切るか』に集約されると言っても過言では無い。

 天和や地和で無い限り、麻雀とはその時点で最も自分に都合の好い牌を捨てると言うゲームなのである。

 つまり肉体的、精神的な部分はあまり関与しないと言える。寝食をも惜しむ長丁場や、負けた時のリスクがよほど大きいと言う訳でも無いのであれば、さほど緊張感を覚える事も無い。

 悪く言えば無神経とも取れる夕貴の性格だが、物怖じしないという点に於いては強みなのである。


 来週、あの『我が家路』の歌唱力テストがある。それまでにどうにか格好が付くくらいには歌えるようになりたいものであるが、まさかカラオケでそんな唱歌を歌う訳にも行くまい。かと言って自宅で歌うのも剣呑である。

 あっちもこっちも立たず、考え事が煮詰まって来ると運動にぶつけたくなって来るのが夕貴の癖である。

「こんにちはー田所さん、ボード取りに来たよ」

 中野に紹介してもらって以来行き着けになっているストリートショップ『FAKEIS』の開きっ放しになっているドアから、両手を後ろに組んで上半身を斜めに乗り出し、夕貴は店内に声を掛けた。

 ボードのペイントを新しくすべくFAKEIS経由で発注を掛けていたものだが、それが完成したとの事で夕貴は学校帰りに店に寄ったのである。

「あーん、出来てるよー」

 中から店員の田所のやる気の無い声が返って来る。夕貴は薄暗い店内に入り、田所のいるカウンターへと向かった。

 相変わらず田所は怠慢な所作で仕事をしている。カウンターの脇から板紙に包まれた夕貴のボードを持ち出し、カウンターの上に置いた。

 夕貴は宝箱を開けるかのように目を輝かせ、その板紙の包みを開いた。そして両手にボードを持ち、やや顔から離して裏面のペイントを眺めた。

「う~んやっぱりカッコいい!!ありがとう田所さん!」

「別に俺が塗った訳じゃねー」

 これまではオレンジの枠線にオレンジのロゴで『flatslope』と写植したシンプルなデザインだったが、新たにペイントしたデザインは、ペンキをぶちまけたように多色を配し、中央に手書き風の文字で『YOUKY』と書いたデザインであった。

 ちなみに費用は夕貴が父親にせびって捻出されている。

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