七本場8
「四切りだな」
「えっ?」
それまで特に何も言わず夕貴の対局を眺めていた中野だったが、急にそんな事を言って来た。
「四切り?赤五狙いって事?」
「まあそれも無くは無いけど、どうせ直撃狙いならシャボも両面も変わらないよ。でも四を切った方が一つだけ有利な事がある」
シンキングタイムが減っている為、夕貴は理由までは聞かず中野の言う通り四を切った。五より四を切った方が好い理由とは何だろう。
夕貴が四を切った後、下家はツモ切り、対面は合わせ打ちの白切り、そして親はツモった後しばらく考えた。
数秒待った後、親から出て来たのはドラの⑦であった。
「あ……」
夕貴は気付いた。夕貴の下家が索子の染め手だと判明した為、親は浮いていたドラの整理に来たのだ。ここで怖いのは夕貴からの直撃だが、夕貴が少々時間を掛けて四を捨てた為ドラ待ちは無いと判断したのだろう。ドラで受けられるのなら迷う事無くドラで受けるはずだからである。
「これを⑥⑧で鳴けば好いんだ!」
「そう言う事」
雀々横丁は喰い替えが出来ない仕様の為、⑦を⑤⑥でチーして④を切る事は出来ないのである。しかし嵌張で鳴けば問題は無い。
『チー』
夕貴はドラを手に入れ、⑧を切った。そして両面の③―⑥待ち。
五五④⑤(⑦⑥⑧)(白白白)(879)
四センチがナンボのモンじゃい。そして次巡、夕貴は無事③をツモり、二着浮上と相成った。
「なるほどね~、染め手を躱す為に親がドラを切って来る可能性があったって事だね」
「あの形に受けておけばドラが鳴けるからな」
「うーん、さすがに好く見てるというか何と言うか……皆考えて打ってるんだなぁ」
彩葉や七海の繊細さは何度も見ているが、中野もまたそれに匹敵する実力がある。沙夜の鳴き麻雀も連荘する為には強力な武器だし、やはり自身の雀力は周囲に比べると一段低い。
もちろんそれは言うまでも無く夕貴自身も認識しているところではあるのだが、こうやってその片鱗を垣間見ると少々気が落ち込んでしまう。
夕貴は中野からもらったプロテインバーと、いつの間にか中野が淹れてくれていた紅茶を嗜む事にした。




