七本場4
夕貴が雀々横丁を始めてから気付いた事があった。それはやたらと鳴きが多い事である。
役牌の一鳴きは分かるのだが、和了りトップと言う訳でも無いのに両面から鳴いて最終形が嵌張偏張……と言う事がままある。
彩葉や七海の鳴き方を見ていると、悪形の塔子から先に処理して、他家からリーチをされても押し返せるように最終形は両面以上の強い形を残している。特に彩葉がお気に入りの待ちが、五五五六のような粒餡待ちらしい。使う枚数が一番少なくて三面張、しかも単騎待ちもある為危険牌をツモっても受け換えが容易であるとの事だった。
彩葉や七海の打ち方が当たり前だと思っていた夕貴は、ネット麻雀に於けるその事象がどうにも理解出来ずにいた。
夕貴が雀横をプレイしていると、不意に部室の扉が開く音がし、見ると中野が部室に入って来た。
「お疲れー……って平坂先輩だけか?」
「やあ後輩くん、見ての通りだよ」
閑古鳥の鳴く部室にいるのは僅かに二人、これではとても部活になるまい。中野もその辺りは察したのか、手にしていたコンビニ袋を自動卓の脇机に置き、中をまさぐった。
「先輩、プロテインバーあるけどどう?」
「プロテインバー?まあ好きだけど、女の子にプロテインバーを進めるってあんまり聞かないなぁ」
ちょいと気の利いたオシャレな名前の甘味ではなくプロテインバーである。確かに、元スポーツ女子として今なお体力の維持には努めている。スケボーは全身運動であるし、ロードワークや部位別の筋トレも持続して行っている。
タンパク質やアミノ酸はそれらに必要な成分であるが、だからと言って、うら若き乙女にお茶請けとしてプロテインバーを出すのは、空気が読めるのか読めないのかいまいち分からない。
とは言うものの、夕貴は一旦スマートホンから目を離してホワイトチョコレート味のプロテインバーを受け取り、中野は電気ケトルにミネラルウォーターを適量注ぐと、スイッチをオンにした。




