七本場2
夕貴の通う矢上南には二人の音楽教諭がいる。一人は麻雀部顧問の堂河時乃と、もう一人は中年の渋沢という男性教師である。堂河は楽しく音楽に触れられるような授業作りを目指しているらしく、お堅い曲ばかりでなく巷間の楽曲も取り入れて生徒たちの興味を尽きさせないような工夫をしている。
渋沢はというと、ややお堅い古風な教師といった雰囲気で、課題や試験を重視する傾向がある。学府で行う授業としてどちらが相応しいかは論を待たないところであるが、やはり音楽は音を楽しむものである為、渋沢の“音学”よりも堂河の“音楽”の方が人気があると言えよう。
そして夕貴を苦しめているのが、その渋沢の授業の課題という訳である。
中学時代はバスケットボール部のパワーフォワードとして名を馳せていた自分は、自慢では無いが本来体育会系なのである。趣味はスケートボードだし、その体格の好さからも体育の授業──特に球技──では、女子であるにも関わらず女子からの黄色い声援を頂く事もある。故に美術や音楽など感性を必要とする分野は苦手であると言える。
百七十を超える自身の長身を活かした、それに相応しい場での活躍があるはずだが、麻雀部のような体育会系とは程遠い部活に所属している理由も、過去に経験した苦い経験にある。
しかしながら、か弱い女子(笑)が多い麻雀部に於いて夕貴と中野の高身長コンビは重宝される。部室内を清掃する際高所の担当等でその恵まれた体格を活かして活躍する。
部の必需品とも言える全自動卓はそれなりの重量がある為、この二人がいなければ自動卓を移動させるだけでも難儀してしまうのである。
自動卓を持ち上げる場合、普通は四辺の内二辺に向かい合わせに立ち、手のひらを上に向けて逆手で辺を持つ。人体の構造上、逆手で重量物を持っていると肩より高くは手が挙がらない。余程の筋力があればあるいは可能かも知れないが、身長が平均よりやや低い七海や沙夜では、無理に持ち上げると怪我などのリスクもある。
彩葉も同年代の女子に比べれば長身な方ではあるが、そもそも体格的に恵まれている夕貴と中野がその任を負うのは、必然であると言えた。




