六本場32
一方で彩葉や中野と死闘を繰り広げた飛鳥台高校の二人は駅近のファストフードでブレイクタイムを摂っていた。四人掛けの箱席に二人で陣取り、和坂は紙コップに入ったオレンジジュースをストローで舌に吸わせながら友人の鍵屋町と向かい合わせに座っていた。
「いやぁ~柊さん強かったよね、近くで見るととにかく美人だしスタイル好いし、天は二物を与えてるよね~!!」
「そうですね……」
彩葉ファンの和坂は自身が対局して敗北を喫した彩葉を褒め称えている。もちろん彩葉も見事な打ち筋を見せてはいたのだが、和坂が彩葉を称えるのは彩葉のファンであるという補正が大きい。
キーちゃんこと鍵屋町は冷静に牌譜を吟味精査しながら和坂のハイテンションに生返事をしていた。気になっているのは彩葉の脚の長さではなく中野の牌譜である。
対局の考察を行う気がないらしい和坂を放っといて、鍵屋町は先ほど手に入れた各校の牌譜をバサバサと捲り、中野の牌譜を手に取った。
(東三局でわざわざ平和を捨てて無理なドラ受け狙いは情報をわざとこちらに与えて初心者を装った……?南三局も恐らくは技打ち……私はたまたま倍満をツモれたけど、それ以外の内容は絶対に打ち負けてる……)
相手のクセというものは何回も打ってようやく把握出来るものであるが、この相手は即効性のある情報戦を仕掛けて来て、しかもそれを成功させているようである。自身の思い込みと言われればそれまでなのだが、それはこうして牌譜を眺めているとそう思わざるを得ない。
そしてそれに対抗していたのが、一見精緻精密とは程遠い印象の金髪ギャルであった。どうにも二人は違うタイプに見えたが、本質的には同じようなタイプに見える。牌効率とオリ方しか教えない競技麻雀とは根本的に違う。
自身には出来ない高度な打ち方と相見えて、鍵屋町は目から鱗の思いであった。
「ね、ね、キーちゃん絶対インターハイ行って柊さんと会おうね!!」
「先輩はもう少し対局の見直しをした方が好いと思いますよ!」
能天気な先輩を持つとどうにも苦労が絶えない。鍵屋町は困り顔を浮かべながらも先ほどの対局を反芻して、興奮冷めやらぬ心境であった。




