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六本場30

 陶器製の大きな丼鉢の中に大量の千切りキャベツ、その上に小エビ、ホタテ、イカの切り身、天かすや桜エビが彩り鮮やかに載っていた。それらの具材で見えないが底にはもんじゃの生地が沈んでいる。

 彩葉は丼鉢の中を見るややおら輝いた表情になり、先ほど元の位置に戻したコテを再び手に取った。

「あのっ……私に焼かせてもらえますか?」

「ん?ああ……」

 彩葉は丼鉢を手元に引き寄せ、座卓の上に載せた両手の間に置き、コテを右手に持ったまま蒸気の上がる鉄板をじっと見つめていた。

「……」

「……」

「……すみません、やっぱりお願いします」

 デビュー戦で焼きまで受け持つのはやや荷が重かったようだ。中野は苦笑いを浮かべると、彩葉から丼鉢を受け取った。


 中野はまずキャベツの上に載せられている海鮮三色の具材を、未使用の箸を用いて全て鉄板の上に落とした。熱せられた鉄板の上で焼かれる海鮮は実に食欲を誘う。これだけでも実に美味そうである。それをコテで細かく刻んだ。

 続いて丼鉢に突き刺すようにして立てられていた木さじを用い、キャベツと生地を馴染ませるように混ぜ合わせ、ひとしきり混ぜると、キャベツだけを鉄板に落とした。

 ざっくり鉄板に拡げある程度熱を通したところで、器用に円形の土手を作り、その中に先ほど細かくした具材を置いた。

 キャベツがしんなりして来たところで、丼鉢に残った生地を土手の中へと流し込んだ。ここで土手が決壊せずに生地を封じ込められるかどうかがもんじゃ最大の見所である。

 彩葉が中野の手付きを食い入るように眺めている。中野が築いたフィルダムは決壊する事なく、見事生地を中に閉じ込めた。

「……まるでピアノを弾いているかのような手付きですね」

 彩葉が表情を輝かせながら賛辞を送って来る。

「うーん、もんじゃ焼くのでそんなに誉められると何か恥ずかしいな」

 中野は生地がふつふつと熱されて来たところで、キャベツの土手を豪快に崩した。

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