六本場28
引かれた油が蒸気をあげている。中野は油を引き終えると、話し出した。
「もんじゃってのはじっくり焼くとパリパリの食感で味が濃くなる。あっさり焼くととろとろでさっぱりした味になる。ま、どっちが美味いかは好みの問題だけど……俺はじっくり焼いた方が好きだな」
キザっぽい中野の言い回しであるが、彩葉の心中を的確に捉えていると言えよう。
「……私は手を育てるのが好きなんです。昨今では聴牌即リーや役牌一鳴きが主流になっていますけど……でもそれでは麻雀としての面白さがどこにあるのか分からないでしょう?」
「配牌の時点で決着がついてる理屈だからな」
「聴牌即リーは誰でも出来ます。ただ和了れれば好いなんて一体何を楽しんでいるのか……特に観客がいるプロの世界では魅せる事も大事です」
その時、注文していた烏龍茶のグラスを大将が座卓の上に置いた。
「私はその……いくつかのプロの団体から卒業後にスカウトを頂いています。本当は大学に行く予定なんですけど、学生プロという枠もありますし、プロになる事自体が嫌な訳ではないんです。でも……」
彩葉は何と言葉を繋いだら好いのか分からず、口をつぐんだ。
「勝つ為の麻雀と魅せる為の麻雀……か」
中野が彩葉の雰囲気を察したのか、会話を繋ぐ為に口を開いた。
「……プロになったとしたら勝ちを目指さなければいけない立場になります。聴牌即リーも勝つ為には必要な戦術だと私も思います。でもそれでは何故麻雀プロという概念があるのかが矛盾してしまいます。プロ野球も観客がいるから成り立つのでしょう?」
中野は一通り話を聞いて、腕を組んだ。
「聞いた所じゃ、プロになったが故に自分の麻雀を打てなくなった、って事があるらしいからな」
「そういう意味では、巷の野良試合の方がよっぽど麻雀としてのエンターテイメント性が高いと思うんです」
競技麻雀の化身とも言える彩葉であるが、昨今の主流になっている効率打法からの聴牌即リーに対してやや懐疑的であるようだ。あくまでエンターテイメントとして捉えた場合、であるが。
「一発と裏ドラの無い競技ルールではリーチの比重が軽くなります。ですから私の打ち方でも充分戦えます。でもそれは学生の間だけ……」
「ならいっそ、プロにはならない方が好いんじゃないか、って事か」
中野の結論に彩葉は頷いた。長い話を中野は真摯に聞いてくれ、彩葉が言わんとしている事を察してくれた。彩葉はそこに至りようやく心中安堵出来た。
「私は中野くんの打ち方を見ていると町場の雀荘で打つ方がよっぽど魅力的だと思うんです」
「ホントに麻雀が好きなんだな、部長は」
「いくら考えても答えが出る事ではないと思いますが……中野くんなら何か、好いアドバイスをくれるんじゃないかと思って……」
彩葉の方が歳上であるが、中野は普通の高校生より遥かに世間ずれしているし、こうして各方面に顔が利くのも何かしらの経験があるが故だと彩葉には思えた。




