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一本場16

「と、とにかく遅くなってすいません。早く打ちましょう」

 呼吸を落ち着けて、七海は散らばった牌をかき集めた。

「でも五人だから誰かが抜けないと。誰が抜ける?」

 夕貴は後頭部で手を組んでそう言った。

「私が抜けます。中野くんの打ち筋をじっくり見せて下さい」

 抜け番に立候補したのは彩葉であった。確かに、直接卓を囲むよりは後ろから全体を見渡せた方がより打ち筋を把握できる。彩葉は是非中野を勧誘せんと意気込んでいるのか、そのためには打ち筋を把握したいところである。

「中野くん、ルールを説明します。よろしいですか?」

 彩葉がルールブックらしいリングファイルを持ち出して来た。

「ルールはアリアリ、三〇〇〇〇点持ちの三〇〇〇〇返し。インターハイルールなら更にワンスリーのウマが付きますが今日はナシで好いでしょう。赤ドラ、裏ドラ、槓ドラ槓裏ナシ、つまり最初にめくる表ドラ以外にドラはありません。一発、国士無双暗槓和了り、オープンリーチはナシです。ハコ割れは本来なら続行なのですが、放課後なので区切りをつけやすくするためにトビの時点でその半荘は終了となります。同じ理由で和了り止めもアリです。よろしいですか?」

 中野は頭の中で反芻しているような仕草を見せ、うなずいた。

「分からないことがあればその都度訊いて下さい。時間的にも恐らく半荘一回が限度だと思います。では始めましょう」

 部長を除く四人は開門振りで席順を決めるために、各々に卓の椅子に座った。開門振りの結果、起家が夕貴、後は沙夜、七海、中野の順である。

「よろしくお願いします!」

 というわけで、ガチガチの競技麻雀ルールでの対局が始まった。


 東一局、ドラ5。親は夕貴。

 彩葉は七海と中野の間に椅子を置き、その位置で観戦することにした。七海が入部して幾度となく打って来たが、やはりインタージュニアの優勝者というだけあってその安定感は折り紙付きだった。基本に忠実であり、破壊力こそないもののアベレージは高い。雀荘ルールとはいえその七海を負かしたのだとなれば期待せざるを得ない。彩葉は二人の配牌をざっと眺めた。

 七海は字牌が四枚の四向聴だが、手持ちの字牌は東西白發と全て役牌である。これらを重ねて手早く鳴ければ早和了り出来るだろう。

 中野は平和系だが嵌張偏張が多く、無理に喰い仕掛けをすれば辛うじてタンヤオを和了れるか、という感じであった。両者とも特に好い配牌というわけではないようだ。

「うーん、リーチ!」

 九巡目に親の夕貴がリーチを掛けて来た。その時の中野の手牌は以下の形。


二四六六七八③⑤⑧⑧⑨56 ④


 リーチが掛かった直後に絶好の嵌張ツモである。普通なら両嵌残しで⑨切りである。しかし夕貴は⑤を打ってリーチしているため、この⑨はモロに裏筋である。夕貴の捨て牌で中野が持っているのは八と6である。

 中野は一瞬手が止まったようだが、すぐに⑨を切り出した。

「ロン一発いっぱぁつ!って一発は無いんだけどさ」

 夕貴はすかさず手を倒した。


一二三三三③③③⑦⑧567


「リーチドラ一……親につき三九○○だねー」

 中野は夕貴の手牌を確認した後、五千点棒を差し出し、夕貴から釣りを受け取った。

(手成りで打って親に打ち込み……⑧は薄かったし、好形一向聴なら確かに⑨を切りたくなる。それでも振り込んでしまったということは、ツイていなかったということでしょう。これを受けて中野くんはどう判断されるでしょうか)

 彩葉は冷静に分析を行う。確かにオリて振るよりは攻めて振れば悪い因果にはならないだろう。しかし高い手が出にくいということは失点の挽回がしにくいということで、このルールの特徴である。一発がなくドラが少ないためゴミ手はどう頑張ってもゴミ手なのである。

 東一局一本場、ドラ③。親は続けて夕貴。安手とはいえ夕貴はリードした。もう一押しが欲しいところである。


二四六③④⑥⑦3556西中 7


 ドラ含みの好配牌である。夕貴は迷わず西を切り飛ばした。

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