六本場26
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でーす」
今まで打っていた各校の面子が待機中の面子と入れ替えの為に散って行く。認定店にはコピー機が設置されており、コピー用紙代を払えば採譜した採譜用紙をコピー出来るようになっている。相手側から希望があれば採譜をコピーして今後の切磋琢磨の為に配付する事が尊いとされている。
例に洩れず、今回彩葉や中野と競い合った三校とコピーした採譜を交換し合い、解散となった。
「柊さん!いつかまた打って下さいね!」
彩葉にボコボコにされた飛鳥台の和坂であったが、対局が終われば年相応の女の子らしくはしゃいでいる。勝ち負けはともかく彩葉と打ったというそのステイタスが嬉しいようだ。
「ええ、今度は是非、全国檜舞台で会いましょう」
彩葉は天使の微笑み(エンジェルスマイル)を和坂に向け、その笑顔は本人の知る所ではなく他人を魅了していた。
「さて……部長、どうする?もう帰るか?」
受付の壁面に掛けてある豪奢な掛け時計は十八時をやや回った所であった。
「そうですね……どこかで反省会をしましょう」
彩葉と共に来店した中野は、店内にいる学生雀士達の突き刺さるような視線を背中で受け止めながら、まるでその場を逃げ出すように彩葉と共に店を後にするのであった。
さて商店街の目抜通りに戻って来た二人は、腰を落ち着けて話が出来るような場所を探し求めて彷徨していた。喫茶店、コーヒーショップ、大衆食堂等が候補であるが、ある一店の前で彩葉が色めき立ったように足を止めた。
「中野くん、あのお店はどうですか?」
「どれどれ」
彩葉が指した先にあったのは、古民家風の木製の玄関に赤地に白抜きの縦書きで『お好み もんじゃ 鉄板焼き 名代 鉄寳』と書かれた暖簾の下がった店であった。
「部長が鉄板焼きって、何かイメージじゃないな」
「もんじゃって食べた事なくて……気になっていたんです」
彩葉は目を輝かせながら中野の背中を押して促して来る。中野も苦笑いを浮かべながら、促されるまま店の引戸を開いた。




