六本場25
迎えた十巡目、西葉川の手は以下の形になっていた。
一二三②③⑥⑦135667 ⑧
(姐さん、好形の一向聴だな。一番手広いのは6切りだけど……)
西葉川の採譜をしている牧田は西葉川の手牌を考察した。6を切ると七種二十四牌だが、先に順子が完成すると単騎待ちの仮聴になってしまう。
親である為単騎でも足留めリーチという選択肢はあるにはあるが、この点差に於いて愚形でリー棒を出すという事は敵に塩を送るに等しい。
(6切り……いや、ここは私ならこう打つ)
西葉川は6に一瞬手を掛けたが、考え直し、7を切った。
(受けは狭くなるが和了りへの期待値は高くなる。索子が先に埋まれば平和、①引きなら5切りの三色、ドラの④引きなら5切りの引っ掛け狙い。2引きなら最高形だ)
西葉川のやや怪しい手付きに場の一同は気付いた雰囲気で、西葉川の下家の鍵屋町はツモってから北を手出しした。
同巡、中野の手牌は以下の形。
三四五七八③④⑤⑥⑦⑦45 3
タンピン三色の聴牌、普通ならば⑥切りで黙聴に構えるだろう。しかし中野は、やや考えているようであった。
(この手なら⑥切り……しか無いはずですよね?)
中野の採譜をしていた彩葉はそう考えた。九で和了ってタンヤオが無くても打点は充分だし、悩む必要は無いように思われる。
(もしかしてリーチを悩んでいるのでしょうか?でもトップ目がわざわざ敵に塩を送るような真似をする必要は……)
彩葉が考えを巡らせていると、中野は⑥ではなく③を切った。
(三色捨て?確かにこの局面で三色は必要ありませんが……確定しているのだからわざわざそれを捨てなくても……しかも危険なドラ表なのだから尚の事……)
彩葉は中野の手の好さに惚れて、他家の進捗具合まで気が回っていなかった。確定三色を捨てる理由は無いように思えるが、この手で③を切る意義はちゃんと存在する。
次巡、西葉川は2を引いて聴牌した。平和三色、安めでもドラである。
「よし……リーチ」
最高形で聴牌した西葉川は、5を切って親リーを掛けた。
(ここで親リー……僅差にも関わらずリーチを掛けたという事は待ちが好いのでしょう)
彩葉の読みは的中している。鍵屋町は三枚目の北を手出しし、中野はツモった。中野のツモは④であった。
(!)
彩葉はようやく中野が三色を捨てた理由を悟った。
(もし聴牌時に三色に受けていたら……)
三四五七八③④⑤⑦⑦345
仮にこの形に受けると、ドラの④をツモった時に手詰まりになってしまう。
三四五七八④⑤⑥⑦⑦345
この形に受けていれば、ドラの④を⑦と振り替える事が出来る。もちろんドラ筋である⑦だって安全だとは言えない。しかし一発赤裏の無い競技ルールではドラそのもので打たない限りはそこまで打点は伸びない。仮に打ち込んでも親の連荘になるのだからむしろツモられるよりは打ち込んだ方が好いパターンもある。
中野は④を手牌に収め、⑦を切った。一瞬場に緊張感が走ったが、西葉川に発声は無い。
(東二局で見せた対面のあの打ち筋からして単純な聴牌即リーとは思えない……嵌⑦や偏⑦は考えにくいから、やっぱり役絡み。あの捨て牌からすると下側の待ち……それを中野くんは察していたんですね)
紙一重の攻防を繰り広げている西葉川と中野であるが、不意に北家の梅香崎が手を倒した。
「あっ、ツモ……一○○○・二○○○」
七八九③⑤⑨⑨778899 ④
確かにドラ嵌張ではリーチを掛けにくいだろう。恐らく両面変化を待ってからリーチを掛けるつもりだったのだろうが、絶好のタイミングでツモれたようだ。
一向聴で賢俊な打ち筋を見せ最高形で聴牌した西葉川、針の穴を通す守備を見せた中野であったが、結局どちらもトップを逃してしまった。西葉川がリー棒を出した為、梅香崎が逆転した事になる。
一位 梅香崎 三二七○○点
二位 中野 三二一○○点
三位 西葉川 二八二○○点
四位 鍵屋町 二七○○○点
「惜しかったな、部長」
中野は首を傾げながら、彩葉の方を向いてそう言った。




