六本場24
南四局オーラス、ドラ④。親は西葉川。
現在の点棒状況は以下の通り。
鍵屋町 二八○○○点
中野 三三一○○点
梅香崎 二七七○○点
西葉川 三一二○○点
ラスとトップでも差は五四○○点、ワンチャンスで逆転可能な点差ではある。しかし一発裏ドラの無い競技ルールに於いてこの点差は絶妙である。
ラスの梅香崎は七七○○か一三○○・二六○○クラス、鍵屋町は一○○○・二○○○でもトップには届かず、西葉川は下手に安い手で連荘すると他家のチャンスを増やしてしまう事になる。
ことここに至り、彩葉はようやくこの半荘で中野が見せた打ち筋の意味を推量出来ていた。
わざわざ遠回りして高い手を作ったり受け入れを減らして和了りを逃したりと、意味深長なその打ち筋は、恐らく自分も含めて飛び抜けたトップを出さないように打っていたのではないか。
飛び抜けた暫定トップに居座ると、皆それに合わせた手作りをしてくる。それを上手く躱してこちらが勝ち抜けられれば好いが、運悪く捕まってしまう事は有り得る。
それよりもそこそこの点差を維持しておき、全体的に軽い場を作り上げておけばオーラスで勝負に来る相手を増やす事が出来る。
あまりにも点差があると着順の変わらない安和了りをする者もいるだろう。こちらが二着浮上を狙っている三着時、勝ち目の無いラスが素点を減らす事を嫌って安和了りをして終わらせる可能性もある。
要するに接戦であれば他家を諦める事なく参戦させる事が出来る。勝負に向かって来るように仕向ければこちらも様々な状況に対応しやすくなる。
もちろんこれは彩葉の思い込みに近い当て推量であるが、現実問題そのような状況になっているのだからそう思ってしまうのも無理はない。
(まさかとは思いますが……狙ってこの状況を作り上げたのではありませんよね?)
彩葉は自問自答しながら採譜用紙に場局とドラを書き込んだ。
両脇に座る鍵屋町と梅香崎は基本に忠実な打ち手であるようだ。部活から麻雀を始めた者は基本当たり障りのない打ち手になる。中野のように先に巷ルールに慣れている者はまずいない。
中野は街中の雀荘に顔が広く、そこの客と十年来のように打ち合っている。それは彩葉も直接目撃しているし、そこで勝ち抜ける中野も知っている。
(競技ルールと巷ルール、腕に磨きが掛かるのはどちらか……と言われても私は分からない……純粋に技術を磨く競技ルールを打っているからといって絶対勝てる訳ではない……)
飛鳥台と聖陽の二人は月並みな打ち手であるようだが、中野の対面に座るヤンキーJK西葉川ちゃんは他とは違う雰囲気を持っているように感じられた。外貌の話ではなく、打ち筋が、である。
彩葉が尋思していると、全員の配牌が終わった。中野の配牌は以下の形。
二四七八③⑤⑦⑦45東北白
そこそこ好いようだが、高いとも早いとも言えない微妙な配牌である。役牌は白しかなく、タンヤオも平和も遠い。しかし両面は二つ、雀頭候補もある。
親の西葉川が北切り、南家の鍵屋町が⑨切り、中野は五をツモって、わずかに悩んだようだが東を切った。




